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第204話

「――二人は本当に幸せそうだよね」  ふいに聞こえた呟きは泰志の口から漏れていた。千世と廉佳の耳にもぎりぎり届くくらいの、小さな声。だがそれは彼の心の叫びだったのかもしれない。 「急にどうしたの、泰志」 「いや……ただ、本当にそう思っただけ」  彼の言い方には棘があった。それは小さいけれど千世の胸に突き刺さり、ささくれのようなぴりぴりとした痛みを残していく。 「ねぇ、僕はお兄ちゃんなんだよ。泰志に変なところがあればすぐに分かっちゃう。だから、言いたいことがあるならはっきり言って」 「うん……俺も弟だから千世にぃのことは何でも分かるよ。例えば、今千世にぃは廉にぃと手を繋げて、恥ずかしいけど嬉しい――みたいな」 「っ……話を、逸らさないでよ」  図星を突かれて顔を赤らめた千世は、口が減らない弟を咎める。思わず繋いでいる手を離しそうになったが、廉佳はそれを許さなかった。 「泰志。お前何が言いたい?」 「ん~?」 「誤魔化すなよ」 「あはは、廉にぃ顔怖いよ」  へらへらとした態度の泰志は捉え所がない。だが作り笑いという名の仮面を被った彼は、本当はとても(もろ)くて、蜃気楼(しんきろう)のようにすぐに消えてしまいそうで。 「泰志……無理しなくていいんだよ」 「俺が? いつ無理してるように見えた?」 「今だってそうだよ」

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