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第205話

 兄弟の間では遠慮も妥協も要らなければ、強がる必要もない。千世は弟のことはこの世界で一番理解しているし、泰志も兄のことは誰よりもよく分かっている。  だからこそ弟が何かで悩んだり迷ったりしていれば、助けてやりたくなるのだ。  泰志は下方に見える遊園地を一瞥(いちべつ)すると、千世と廉佳の後ろにある窓を見て言った。 「――俺、ここまで付いてきて良かったの?」  それは、ゴンドラの中の籠った空気に呆気あっけなく溶けてしまいそうだった。また、あの『もやもや』が千世の胸を支配する。  いつもは図々しいくらいに千世の傍に寄ってくるのに、こんなに弱気になっている姿は珍しい。廉佳も驚いて眼を見開く。 「らしくないな。急になんだよ」 「そうだよ、泰志も来たかったんだよね?」 「そうだけどさ……なんか無理やり付いて来ちゃった、みたいな感じしない?」 「それは……」  千世はすぐさま否定できなくて口籠もってしまう。無理やり、というほどではないが、心底歓迎している訳でもなかったのも確かだ。だが自分でもその原因が分からなくて『もやもや』するのだ。 「そもそもさ、俺が千世にぃの愛人になったところからやり直すべきだったのかな……」 「え――」 「あの時は廉にぃと千世にぃが付き合うってなって、俺もムキになって『愛人になる』なんて言っちゃったけど、実は千世にぃを困らせてたのかもしれないって思って」 「……」

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