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第206話

 泰志がそんなことを考えていたなんて知らなかった。  ずっと廉佳しか見ていなかったから、弟が悩んでいることに気がつけなかったのだ。兄として情けない。  だが千世は泰志に困らせられたことは無いと思っている。噛み癖が酷かった時も言えば分かってくれたし、べたべたされるのも愛人になる前からのことなので迷惑だと感じたことは一度も無い。 「泰志が僕を困らせてるなんてこと、ないよ」 「じゃあ……、じゃあ何でそんな顔してんの?」  千世は咄嗟に窓を見た。薄暗がりの中、それに反射する自分の顔は切羽詰まったように歪んでいる。 「千世にぃはさ、無意識のうちに困ってたんだよ。廉にぃと俺との関係をどうするか」  弟に言われてはっとした。  泰志と千世、兄弟の間で困ったことはない。だがそこに廉佳が絡んでくると話は別だ。いや、千世と廉佳の間に泰志が入ってきたと言った方が正確だろう。泰志の言うとおり、彼に指摘されて初めて気が付いたということは、自分が悩んでいたのは無意識だった。  だから漠然とした『もやもや』に襲われていたのだろう。

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