206 / 234

第207話

「俺、千世にぃの愛人やめるね。普通の弟に戻るよ」 「――!?」  何で、泰志がそんなこと言わなきゃならないの?  なんて言える立場ではないことくらい分かっている。  このままでは泰志が自分から離れてしまう。そんな気がして、千世はその手を伸ばしていた。 「嫌だ……僕は、泰志とも恋人が良い」  『もやもや』。その正体を、千世はもう知っていた。 「やっぱり僕、泰志のことも本気で好きなんだ」  廉佳という恋人がいるから泰志を好きになってはいけない、と心のどこかで決めつけていた。だが自分の気持ちは偽れない。自分に純粋な愛情を向けてくる弟が好きなのだ。  立ち上がって距離を詰めた泰志が、千世の手を握る。 「千世にぃ……そんな、同情しなくていいんだよ」 「同情なんかしてない! 僕への気持ちが報われない泰志を可哀想って思ってるんじゃなくて、純粋に泰志が――好きなんだ」  言ってしまった。弟のことも好きだなんて優柔不断な自分を、恋人は許してくれるだろうか。今度こそ嫌われたかもしれない。 「ごめんね、廉佳さん」 「なに謝ってんだよ。泰志に失礼じゃないのか」 「っ!」  予想だにしなかった廉佳の言葉に、千世は、がばっと顔を上げた。

ともだちにシェアしよう!