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第210話
正面から瞳を見つめられると恥ずかしくて、歯切れの悪い返事になってしまった。
そこへ、廉佳が待ったをかける。
「こういうのは俺が先じゃないのか? 俺の方が先に千世と付き合ってるんだからな」
「でも俺は弟だよ? 廉にぃより千世にぃの傍にいる時間は長い」
「俺の方が年上だろ。年功序列で、泰志が後」
「ちょっと二人とも、子供みたいなこと言わないでよ」
「じゃあ千世はどっちと先にキスしたい?」
「えっ……」
そう聞かれると困ってしまう。やはりどちらの方が良いかなんて決められないのだから。
口籠っていると廉佳が頬に口付けを落としてくる。
「なら早い者勝ちってことで」
「あっ、廉にぃ狡い!」
兄弟の間を縫って廉佳の手が、反対側の頬に触れた。
横を向かされた千世の唇を、柔らかい感触のものが覆う。むくれる泰志を知ってか知らずか、廉佳のキスはだんだん熱を孕んでくる。
閉ざされた唇をこじ開けられ、舌を絡め取られた。
「全く、廉にぃには油断できないなぁ――」
「ふっ、う…んんっ!」
泰志に耳朶に歯を立てられて肩を竦める。どちらに集中したら良いのか分からなくて頭が混乱してしまうが、千世は本能的に眼の前の悦楽だけを追い続けた。
唾液が絡む音がやけに大きく聞こえる。
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