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第214話

「ね、面白そうじゃない?」 「俺は……まぁ良いけど、台詞そのまんま使うのは嫌だからな。さすがに俺も恥ずかしいわ」 「うん、それでいーよ。千世にぃは?」  唐突に話を振られて千世の肩が大きく跳ねる。  千世の答えは、例のごとくあの一言だった。 「ちょ……ちょっとだけ、なら」 (僕って、本当に学習しないな……)  これまでに幾度となく繰り返してきたやり取りだ。二人の無茶振りに対して、『ちょっとだけなら』と返してしまう。もはや千世の悪い癖だった。 「千世にぃならそう言ってくれるって思ってた」 「実は俺も。千世は押しに弱いからな」 「分かってるならいちいち聞かないでよ」 「分かってても、一応聞いておかないと。こっちが一方的に千世にぃをいじめてるみたいになっちゃうじゃない」  確かに、千世が『ちょっと』の妥協をすることで同意が得られたことにはなるかもしれない。  だが漫画では一対一の行為だったのに、今は二対一だ。二人はどうするつもりなのだろう。  千世が疑問を投げかける前に、廉佳が立ち上がってクローゼットの戸を開けた。 「廉佳さん何してるの?」 「んーっと……あ、あったあった。これで千世の腕縛ってもいいか?」  廉佳の手にあったのは藤色のネクタイだった。それは彼が滅多に着ることのないスーツに合わせるもので、見たのは廉佳の大学の入学式の時が最後だ。 「お、お手柔らかにお願いします……」 「ネクタイなら布の幅が広いから痛くなさそうだね」 「ほら、手を背中に回して」

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