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第233話

 胸に乗っていたのは廉佳の腕だった。彼の顔が間近にあって、途端に鳴り出した心臓にすっかり眼が冴えてしまう。  廉佳は壁側に身を寄せていて、あまり窮屈さは感じなかったので今の今まで気が付かなかった。 (廉佳さんがこんなに近くに……! 寝ててもカッコいい……)  長い睫毛に縁取られた瞼はぴったりと閉じられているが、その切れ長の眼に見つめられるだけで千世の鼓動はどんどん加速していくのだ。スッと通った鼻筋も、薄い唇も、(つや)やかな黒髪も、彼のどこを取っても好きだと言える。未だにこうして見惚れてしまうということは、今後何度でも廉佳に恋をしてしまうということ。日々の些細な出来事が、幸福が、新たな情愛を生む。  そんな廉佳をずっと見ていたいはずなのに、直視するのが恥ずかしくなってきてしまい、千世は反対側を向いた。 (あれ、泰志はどこだろう)  昨夜の記憶が曖昧だから、弟がどこで寝ているのかすら分からない。ただ、ベッドには居ないことは確実に言える。  部屋をぐるりと見回してみても人影はなかった。トイレにでも行ったのだろうか。  寝返りを打って床を見る。と、何とそこに千世が探していた姿があった。 (もしかして、落ちちゃったのかな)  最初は千世の両脇に二人がいたのだろうが、さすがにセミダブルのベッドに男三人が横になるのは難しかったらしい。  泰志は自分が床に落ちていることに気付いていないのか、背中を丸めて寒そうにうずくまっていた。

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