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第234話

「泰志、泰志。起きて」  廉佳を起こさないようにそっと声をかける。数回彼の名前を呼んだところで、やっと瞼を開けてくれた。 「ん、千世にぃ…………さぶっ」 「こっちおいでよ、風邪引いちゃうよ」  手招きをすると、弟はのっそりと起き出してもぞもぞと布団の中に潜り込んでくる。 「あ~、あったかーい」 「いつから床にいたの? 寒かったでしょ」 「う~ん、落ちた瞬間は起きたけど眠かったからそのまま寝ちゃった。ねえ、もっとくっついて良い?」 「うん……うっ」  くっつく、というより力強く抱き締められる。身長差があるせいで、千世はまるで抱き枕のようにすっぽりと泰志の胸に納まってしまった。 (僕、一応お兄ちゃんなんだけどなぁ)  千世が弟に愛でられることの方が圧倒的に多い。これからはさらに頻度が増えるだろう。   千世に甘えてくるときの泰志の幸せそうな、ほっこりとした笑顔は見ている方もついつい笑顔になってしまう。恐らく、べたべたしてくる泰志をある程度は(いさ)めないと、彼はいつまで経っても兄離れができない。だけど、そうなってしまったら物寂しい気がして、弟が依存してくるのを甘んじてしまうのだ。  兄として悩ましいところではあるが、泰志は弟であるとともに恋人なのだから、それでも良いではないかと思えるようにもなった。 「あーあ、千世にぃとずっとこうしていたいな」 「な、何言ってるの? 学校だってあるし――」 「ちょっとちょっと、真面目に返さないでよ。ものの例えじゃん」 「あ……あはは」

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