9 / 10

後日談1

「すまん」 「いいよ……あれは、しろうにあげようと思って買ってきたんだし……」 洋服を着ながら鉄平が気にしていないと言うが、言葉とは裏腹に、その顔は少しむくれていた。 二回目のセックスの後、鉄平がグッタリと眠ってしまっている間に、志狼がひとりで栗羊羹一本をペロリと食べてしまったのだ。 確かに志狼のために買ってきたのだが、鉄平だって一口食べたかった。 一日限定数で、行列の出来る栗羊羹だ。 志狼のおじいさんが好きだったと言い、最後の一個だったのに。 けっこう大きい羊羹だったはずなのに、まさかまるまる一本食べてしまうとは思わなかった。 志狼はペロリと平らげた後、寝起きの鉄平に「しろう。ひとりで食べちゃったのぉ?」と言われて、しまった! と焦った。 腹が減っていたのもあるが、懐かしくて、ついつい食べてしまったのだ。 「美味しかった?」 「あ、ああ。懐かしい味で、つい全部食っちまった。美味かったよ。ありがとう」 「……よかった」 ───まだ拗ねてるな。 志狼は所在無さげに頭を掻いた。 志狼がオロオロするものだから、鉄平も引っ込みがつかなくなっていた。 「……明日」 「え?」 「明日の朝、一緒に買いに行こう」 「えっ? でも、仕事は?」 「少々遅れて行ったって大丈夫だ」 今日だってサボってラブホテルにいるのだから。今のところ大きな事件もなく、平和だった。 「タマにも食べさせたいしな」 「……」 鉄平がモジモジとうつむいた。 「飯食いに行こう。今日はお前の好きなもんでいいぞ。タマ、なにが食いたい?」 もう夕方だった。結局、昼飯抜きで半日もホテルにいたことになる。 「……お寿司」 「ああ。好きなだけ玉子食っていいぞ」 「甘エビも食べたい……わぁ!」 志狼が鉄平を抱きあげた。 「なんでも食え」 蕩けるような甘い微笑を浮かべて、鉄平の唇を啄ばむようにキスをした。 鉄平は拗ねていられなくなり「……ずるい~」と、志狼の首にしがみついた。

ともだちにシェアしよう!