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5.【 space 】side j
学園祭の喧騒を逃れ、自分の研究室へ移動した。
この中なら、派閥ややっかみで耳をそばだてる輩もいない。ようやくちゃんと話が出来る。
「君の家から二時間は掛かるよね?どうするの?一人暮らし?」
「親からは、なるべく自宅から行ける学校にしなさいって言われてる。でも、俺のやりたい学部はここにしかないんだよ。だから最悪の場合は通います。襄一さんは何処に住んでいるの?」
「すぐ近くで、ルームシェアしてるんだ。でも、今月で解消するから、次を探すところ。家賃負担が倍になる前に手を打たないとな」
環境はバツグンの賃貸だったけど、1人では広すぎる。
それに、居たはずの人が居なくなった後の淋しさに弱いんだ僕は。あの下宿を出た後、嫌という程それを思い知った。
「……そこ、そのまま住んで!」
「え?」
「そのまま住んでて!俺、頑張るからっ!春からその部屋入居するから!」
「……本気で言ってる?」
「その部屋から引っ越したとしても、そっちに勝手に住み着くから飼ってよ。今度は襄一さんが飼い主!」
「やめて、それだけは……」
懐かしいエピソードを蒸し返され、あの頃の僕に引き戻されて行く。
「君とまた暮らす可能性がある、という事?」
「勿論!一人暮らしは心配だって言う両親も『襄一さんの家に下宿』なら許してくれると思う!」
「……本気にしてもいい?」
「! よろしくお願いします」
パアッと輝くような満面の笑みに、目が眩むかと思った。
帰宅した僕に襲いかかるであろう闇、人の気配を失くした部屋を、君は一瞬にして春を待ち望む空間に変えてしまった。
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