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花火大会
どこを見ても人、人、人。普段はそこまで人通りが多いわけでもない道が、今日は人で溢れかえっている。小さい子供からお年寄りまで、私服もいれば浴衣もいる。今日は花火大会だ。
そんな人混みに混ざって浴衣姿で歩く僕と謙哉。謙哉の手にはわたあめとりんご飴が握られている。
「イカ焼き~イカ焼きはどこかな~?」
「それだけ持ってればもういいんじゃない?」
「やだ。絶対イカ焼きも食べる。あとかき氷」
「そんなに買うの?」
「なんでも買ってくれるんだろ」
「文句じゃなくて、心配してるの」
浴衣で行きたいと主張した僕に対して謙哉は「持ってない」「動きにくい」「やだ」「男で浴衣着て来る奴なんていない」「恥ずかしい」と断固拒否した。
しかし僕も「僕が買う」「お願い」「そこをなんとか」「そんなことない」「僕も一緒に着るから」と譲らなかった。最終的には「出店で欲しいものがあったらなんでも買ってあげるから」と、土下座する勢いで言った僕の言葉に「そこまで言うなら」と謙哉が了承してくれたのだ。
「イカ焼き買えた!あとはかき氷か」
「花火終わったあとにしたら?ほかの食べてる間に溶けそうだよ」
「それもそっか……じゃあかき氷はあとでにしよーっと」
それにしてもすごい人の数だ。歩くどころか立っているだけで疲れてしまう。
「人増えてきたね。場所あるかな?」
「それはたぶん大丈夫。こっちこっち」
突然人の流れを横断して人混みから出る謙哉。僕は疑問を抱きながらも、すいすい歩みを進める謙哉に置いていかれないよう後を追う。
くねくねと道を進み、人気のない小さな林を抜けると、古びた鳥居が見えてくる。
「こんな所に神社なんてあったんだ」
「そうなんだよ。で、ここから花火はばっちし見えるけど、人は全然いないんだ。まぁさすがに近くで見るより迫力は落ちちゃうんだけど……どう?」
「花火が見れるなら僕は全然気にしないよ。人がたくさんいるよりゆったり見れるし……イチャイチャしやすいしね」
「うるせぇよ」
間髪入れずに真顔で返してくる彼に苦笑するしかない。もう少し恥ずかしがるなりなんなりしてもらえると、こちらとしても嬉しいのだが。
それに、僕は案外本気で言っているというのに。先程からチラチラ覗く太ももが目に毒だ。ついでに乳首も。
「浴衣、着崩れてるよ」
「ん、ほんとだ。やっぱ浴衣動きにくいよ」
「洋服みたいに大股で歩いちゃいけないんだよ」
「うーん……やっぱ自分じゃできない。怜やって」
「はいはい。落としたらもったいないから買ったもの全部置いといて。で、こっち向いて」
謙哉を本殿のほうに向かせ、その向かいに立つ。襟元の調節をするために胸元に手を入れると、その時、意図せず乳首を指が掠める。
「っ……」
小さく震える肩に、上がりそうになる口角を必死に抑え、あえて気づかないふりをする。そして、素知らぬ顔でまた乳首を掠める。再びビクリと震える謙哉に小さく笑いながら問う。
「何?感じちゃった?」
「違う」
「そんな気分になっちゃった?」
「なってない!……ッ」
今度ははっきりと摘むが、まだ声は出ない。なかなかしぶとい。
「反応してるじゃん」
「それはお前があぁッ、」
声を荒らげるであろうタイミングで強めにつねると今度ははっきりと声をあげた。緩む口元を抑えることができない。顔を真っ赤にして俯く謙哉を見れば尚更だ。
「い、今のはずるい!」
「そお?でも感じてることには変わらないでしょ?」
「感じてない!」
「……謙哉は何も感じてないのにあんな欲情した声出すの?」
「はぁ!?そんなわけないだろ!」
「じゃあ感じてるってことじゃん。違う?」
「そっそれは……っ」
羞恥のせいか、謙哉の口からでるのは支離滅裂な言葉ばかりだ。しかし、これ以上不毛な会話を続ける気もない。諦めずに口を開こうとする謙哉に、噛み付くようなキスをした。
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