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陰日向 1
舜は今日も遅い。
(今日は特に遅いなぁ。)
時計はとうに0時を過ぎた。
舜の部屋に自分の物がどんどん増えていることが、じわじわ嬉しくなってくる。
一人でにやけてしまう。
歯磨きを済ませ、先に寝ることにした。
(早く帰ってこないかなぁ。)
仕事の疲れもあって、うとうと眠りに落ちていった。
(?)
(舜、帰ってきたかな?)
まどろみの中で、誰かが入ってきて動いているのを感じる。
(舜、シャワー浴びて早く来ないかなぁ。)
うとうとと意識が遠のく。
ごそごそ、と布団に入ってきたのを感じ抱きついた。
(あれ?タバコ臭い。)
違和感に、急に意識がはっきりしてきた。
ガバッと起き上がると、すぐさま押し倒された。
(誰?)
パニック過ぎて声もでない。
その男はいきなりキスをしてきた。
僕は必死に抵抗するが、強引に舌をねじ込んでくる。
髭が当たって痛い。
「抱きついてきたのはお前だろ?」
「違っ、あんた誰だよ!」
「お前こそ、誰だよ。舜はどこだ?」
「お前、舜の何なんだよ!」
男は黙って僕を見ると、
「まぁ、舜じゃなくてもいいや。やりにきただけだし。」
そう言うと首に舌を這わせ始めた。
虫ずが走った。
「やめろ!離せ!」
「ぎゃあぎゃあ、うるせえやつだなあ。」
手首を片手で押さえられたまま口に枕に敷いていたタオルを突っ込まれた。
「んんっ!!」
男の手が、ズボンにかかる。
(嫌だ。嫌だ。嫌だ!)
(舜、助けて。怖い。)
扉の開く音がして、一瞬間を置いて、走ってくる足音がした。
「何やってんだ!」
舜はそいつの肩を強く引き、僕の手首は解放された。
「お前がいないから、変わりに相手してもらおうと思ってただけだよ。何?妬いてんの?」
「ふざけんな!お前とはもう終わってんだよ!どの面下げて来やがった!」
「そう、怒んなよ。こっちが終わったら抱いてやるよ。」
「出ていけ。」
舜の低い声が響く。
「はあ?何で俺が出ていくんだよ。今からがいいとこなんだから、邪魔すんなよ。」
「出ていかないんなら、警察呼ぶぞ。」
「わかったよ。じゃあ、今度相手してくれよな?舜ちゃん。」
男は去り際に舜にキスをした。
舜は唾を吐き捨てて、
「二度と来んな!」
と、怒鳴った。
男はへらへら笑いながら、出ていった。
僕はベッドにペタリと座ったまま震えが止まらなかった。
「明、ごめん。怖かったね。」
舜に抱き締められて、涙がポロポロ溢れてきた。
「しゅん~、怖かったよぉ。」
僕は子供のようにわんわん泣いた。
怖かった出来事を洗い流すかのように。
その間、舜はずっと抱き締めてくれていた。
僕が泣き止むと舜はホットミルクを出してくれた。
僕は目を真っ赤にして、ずっと舜に抱きついた。
舜はよしよししながら、ぽつりぽつり話始めた。
「僕のせいで、ごめんね。」
暫くの沈黙のあと、
「あれ、元カレなんだ。」
と、言った。
僕は信じられなかった。
あんなひどいことを舜がされていたのかと思うと悔しくてたまらなかった。
「若気の至りだよね。18の俺にはあれがかっこよく見えたんだ。あんなにひどいやつなのに、アイツしか頼る場所がなかった。」
「舜、僕、もう忘れるから。」
「ほんと、最低なやつだよ。明にあんなことしやがって。」
「何もされてないから。僕が軽率だったからいけないんだ。」
「そんなことないよ!明は絶対悪くない。明日鍵変えてもらうから、安心して。」
コクりと頷いたが、心に陰を落としたのは確かだ。
「まだ、震えてる。」
僕の指先はまるで自分のものではないように震えがとまらないでいた。
舜がキスをしようと近づいてきた時、
ドンッ!
僕は突き飛ばしていた。
アイツの顔が浮かんで。
「歯磨きしてくる。」
僕はガクガクの膝でどうにか立つと、洗面所に行き、歯茎から血が出てもまだまだ磨いた。
あの感覚を二度と思い出さないように。
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