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明日は金曜日だ。
僕はどうしたらいいのかわからなくなっていた。
舜に会いたいのに、体には触れて欲しくなかった。
きっと舜は求めてくる。
でも、あんなこと、もうできない。
気持ち悪い。
何度忘れようとしても、あの日のことが甦って、吐くこともあった。
少しでもタバコの臭いがすると気分が悪くなり、トイレに吐きにいく。
そんなことを繰り返していた。
何をされそうになっていたかを考えないようにしても、容易にその描写が浮かぶ。
自分が汚いもののようで、アイツの臭いが自分からしそうで、精神のバランスを崩していた。
『今日、明んち行っていい?』
『ごめん、仕事で疲れてるから、今週は会えない。』
『そっか。ゆっくり休んでね♪』
舜の優しさが辛い。
でも、今の僕では舜を傷つけるだけ。
(舜に会いたいよぉ。)
(舜に嫌われたくないよぉ。)
シャワーの湯と一緒に、涙が流れていく。
僕は首をガリガリとかきむしった。
そこはもうかさぶただらけで、血がたらたらと流れている。
(こんなの見られたくない。)
シャワーからあがると、テーブルに置いたままの鍵が目にはいった。
舜がくれた新しい合鍵。
僕はそれを手に取ると、ダストボックスに捨てた。
(二度と行けない。)
部屋を思い出すだけで、手が震えた。
もう何週間になるだろう。
適当に理由をつけては舜の誘いを断っている。
舜も理由が適当だとわかっていて、無理強いはしてこない。
(いっそ僕のことは忘れてくれたらいいのに。)
思ってもいないことを考えたせいで、涙が溢れた。
首の傷は治り、吐き気も治まってきた。
時の力の凄さと、人間のしぶとさにため息がでる。
僕は記憶から、消し去ることに集中していた。
そこにはどうしても舜が含まれてくる。
舜のことを忘れられれば、あの日のこともきっと無かったことになる。
最近はそんな考えが僕の中をぐるぐると、回っていた。
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