4 / 120

アツの兄弟

「篤人様、お兄様達がお呼びですよ」 「え゛ぇ~‼」 アツ、寺田さんにイヤだを連発してた。 僕だって、別々になるのは正直、嫌。 「たいした話しじゃないよ」 アツに励まされ、寺田さんの後をトボトボと項垂れて付いていった。 広々とした和室に、おじさんとおばさんが並んで座って待っていた。向かい合う形で、ちょこんと正座し、体を小さく丸めた。 二人の表情を見るのが怖くて顔を上げられない。 「・・・いつもすみません。あっ、あの・・・すぐに出ていきますので・・・」 「何言ってるの‼未央は、今日からここに住むんでしょ⁉」 「えっ⁉だって、寺田さんが・・・」 「寺田が恐い顔をしていたのは、貴方のお父さんに対して。毎回、謝れば済むと思っているんでしょが、今回ばかりはねぇ・・・」 おばさんが大きくため息を吐いた。 「産まれてくれば、落ち着くと言っていたが、初産だし、初めての子育ては、思い通りにならない事の方が多い。今まで以上に、未央に辛く当たってくるだろうし、産後うつになる可能性だってないとは言い切れん。まぁ、いずれ、未央はうちの佳大に・・・と考えて、手術を勧めなかったんだ。中澤さんの会社にだって、十二分過ぎるくらい融資をしてきたし」 「おじさん・・・あの・・・」 初めて耳にする事に、頭が付いていかない。 パニック寸前かも。 佳大さんは、アツの三人いるお兄さんの一番上。何回か会ったことはあるけど、会話はあまりしたことがない。 「いきなり言うから未央が驚いているでしょう。ちゃんと段階踏んで説明してあげないと」 「いちいち説明しなくても分かるだろ⁉未央は、もう高校生なんだ。子供じゃない」 二人の会話をただ、呆然として聞いていた。 アツのお兄さんと一緒になるってことは、つまり、アツを諦めるという事。 そんな・・・。 ぎゅっと上唇を噛み締め、爪を立ててスボンの生地を掴んだ。 空気の流れが、一瞬、変わって、和室にどかどかと、アツと、アツのお兄さん達が入ってきた。 アツの後ろにいるのが、理人(みちと)先輩と、頼人(らいと)先輩。双子で、同じ高校に通学している。二人とも、専攻しているコースは違うけど、普通科の三年生。 佳大さんは、一番最後。 アツとは八才、年が離れていると前に聞いたことがある。 医者にはならず、自活し、会社勤めをしている・・・みたいだけど、詳しいことまでは知らない。 どうしよう、まともに顔見れない。 刺すような視線を向けられ。 好奇の視線も向けられ。 いたたまれなくなった僕に、差しのべられたのは、佳大さんの大きな手。 思わず、見上げるとーー。 「場所を変えようか⁉」 低い声で、穏やかな笑みをたたえ、アツによく似た顔立ちの男性がそこに立っていた。

ともだちにシェアしよう!