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アツの兄弟
「篤人様、お兄様達がお呼びですよ」
「え゛ぇ~‼」
アツ、寺田さんにイヤだを連発してた。
僕だって、別々になるのは正直、嫌。
「たいした話しじゃないよ」
アツに励まされ、寺田さんの後をトボトボと項垂れて付いていった。
広々とした和室に、おじさんとおばさんが並んで座って待っていた。向かい合う形で、ちょこんと正座し、体を小さく丸めた。
二人の表情を見るのが怖くて顔を上げられない。
「・・・いつもすみません。あっ、あの・・・すぐに出ていきますので・・・」
「何言ってるの‼未央は、今日からここに住むんでしょ⁉」
「えっ⁉だって、寺田さんが・・・」
「寺田が恐い顔をしていたのは、貴方のお父さんに対して。毎回、謝れば済むと思っているんでしょが、今回ばかりはねぇ・・・」
おばさんが大きくため息を吐いた。
「産まれてくれば、落ち着くと言っていたが、初産だし、初めての子育ては、思い通りにならない事の方が多い。今まで以上に、未央に辛く当たってくるだろうし、産後うつになる可能性だってないとは言い切れん。まぁ、いずれ、未央はうちの佳大に・・・と考えて、手術を勧めなかったんだ。中澤さんの会社にだって、十二分過ぎるくらい融資をしてきたし」
「おじさん・・・あの・・・」
初めて耳にする事に、頭が付いていかない。
パニック寸前かも。
佳大さんは、アツの三人いるお兄さんの一番上。何回か会ったことはあるけど、会話はあまりしたことがない。
「いきなり言うから未央が驚いているでしょう。ちゃんと段階踏んで説明してあげないと」
「いちいち説明しなくても分かるだろ⁉未央は、もう高校生なんだ。子供じゃない」
二人の会話をただ、呆然として聞いていた。
アツのお兄さんと一緒になるってことは、つまり、アツを諦めるという事。
そんな・・・。
ぎゅっと上唇を噛み締め、爪を立ててスボンの生地を掴んだ。
空気の流れが、一瞬、変わって、和室にどかどかと、アツと、アツのお兄さん達が入ってきた。
アツの後ろにいるのが、理人 先輩と、頼人 先輩。双子で、同じ高校に通学している。二人とも、専攻しているコースは違うけど、普通科の三年生。
佳大さんは、一番最後。
アツとは八才、年が離れていると前に聞いたことがある。
医者にはならず、自活し、会社勤めをしている・・・みたいだけど、詳しいことまでは知らない。
どうしよう、まともに顔見れない。
刺すような視線を向けられ。
好奇の視線も向けられ。
いたたまれなくなった僕に、差しのべられたのは、佳大さんの大きな手。
思わず、見上げるとーー。
「場所を変えようか⁉」
低い声で、穏やかな笑みをたたえ、アツによく似た顔立ちの男性がそこに立っていた。
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