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大好きな彼につく嘘は苦い
「佳兄、何て⁉」
二人きりになって、アツが口を開いた。
「・・・何でもない」
首を横に振るので精一杯。
「そう」
アツが悲しそうな表情を浮かべた。
ごめんね、アツ。
嘘ついたのバレバレだよね。
ちゃんと顔も見れないんだもの。
胸が張り裂けそうで、苦しい・・・。
「未央・・・やっぱりいい・・・」
僕の心情を察してか、アツは、それ以上詮索する事はしなかった。
「アツ‼そうだ‼制服と、ジャージと教科書、どうしよう」
この重苦しい空気を何とか変えようと、わざと明るく振る舞った。
「理兄と頼兄が、先輩や、後輩に、お下がりを譲って貰えないか聞いて回ってくれている。明日中には何とか用意出来ると思うよ」
「アツ、ありがとう」
「他に必要なもの、あとで、買いにいこう」
「うん‼」
気付けば、いつもの彼に戻っていた。
アツのこの笑顔を見るのが好き。
夕方近くになり、風が急に出てきた。
日中の過ごしやすい陽気と比べると、少し肌寒い。
「雅枝さん手伝います‼」」
パタパタと、スリッパの音を鳴らしながら、台所へ向かった。
アツのうちには何度も来てるから、家政婦さんの雅枝さんとはすっかり顔馴染みになった。
勤続二十年の大ベテラン。
一人で、この大きいおうちを掃除したり、家族の衣食住の面倒をみてる。
すごいな~って、いつも、感心している。
人当たりも良くて、よその子である僕に対して、アツと同じように優しく接してくれるから、彼女の事が好き。
僕が、両方の性を持っていることも勿論、知ってる。
「あら、未央ちゃん、来てたのね」
「すみません。また、来ちゃいました」
「いいのよ。未央ちゃんが来ると、不思議と家の中が明るくなるから」
「雅枝さん、何か手伝いありますか⁉」
「じゅあ、お皿を広間に運んで貰えるかしら⁉」
「はい‼」元気よく返事して、テーブルの上に並べられてあったお皿を手に持ち、台所を出ようとして、入ってきた佳大さんとぶつかった。
ガジャーーン‼派手な音を立てて床に皿が散らばった。
「す、すみません」
割れた皿を拾おうとして、指先に鈍い痛みが走った。
見ると右手の人差し指の先っぽの所が切れ血が滲み出ていた。
「ごめん、前をよく見ていなかったから」
「大丈夫です・・・よ、佳大さん‼」
手を握られたと思ったら、指が、彼の口の中に入っていた。
そこは、くらくらするくらい熱くて。
傷口を軽く吸われて、体が、ビクビクと勝手に震えた。
な、何‼今の‼
びっくりして、戸惑う僕に、佳大さんは満足そうな笑みを浮かべ、ゆっくりと口を離した。
「やっぱり、十八になるまで待てない。今すぐにでも、未央が欲しくなった・・・」
そう言って、今度は、頬っぺたにチュッと軽く口付けをされた。
「雅枝さん見てるから‼」
「オレたち、いずれ夫婦になるんだ。恥ずかしがることないだろ⁉」
そんな・・・。
勝手に決めないで‼
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