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大好きな彼につく嘘は苦い
「篤人様も嬉しいでしょう。未央ちゃんが、佳大様の奥様になられるんですよ」
え⁉アツ⁉
う、嘘‼
雅枝さんの視線の先を辿ると、その先に、仏頂面したアツが‼
「すごい音したから、様子を見に来たんだけど、お邪魔虫だね、俺」
ぷいっと、顔を逸らして行ってしまった。
「アツ、待って‼」
追いかけようとしたら、佳大さんに腕を掴まれた。
「行かせない」
むっとした表情を浮かべる彼。
目が据わっている。
「少しは、自覚したら⁉自分の立場。未央のお父さんの会社への融資しているこのオレなんだよ。二年前から父の代わりに、オレが出すようになった。未来の花嫁の為なら、幾ら出しても惜しくないからね」
雅枝さんが、割れた皿を箒で一ヵ所に集めてくれていた。
話しが聞こえているはずなのに、聞いていない振りをしてくれている。
「もうじき、弟が産まれるんだろう⁉いくら、憎くても、血の繋がった弟は可愛いだろう⁉
産まれて早々、路頭に迷うことになるかもしれないよ」
「脅すんですか⁉僕を・・・」
「そんな訳ないだろ。未央の可愛い花嫁姿が早く見たいだけだ」
「こんな気色の悪い・・・どこがいいんですか⁉」
僕の気持ちを思いやる、優しさの一欠片さえ彼にはない。
悔しさと、悲しさが込み上げてきた。
「まっさらな所と、まだ、何色にも染まらない所かな⁉言い寄ってくる女はごまんといる。みんなどうせ金目的・・・鬼頭の嫁となれば、一生、楽して贅沢三昧だろ⁉未央は、オレを心底愛してくれるーー尽くしてくれる、不思議とそう思わせてくれる。それに、オレ、最低でも四人は子供が欲しい」
「佳大さん‼」
ふわりと、体が宙に浮いた。
手足をバタつかせて、下ろして‼って抗議したけど。
「雅枝さんの邪魔になるから」
あっさり却下され、そのまま、広間へ連れて行かれた。
「来週の日曜日、未央との婚約発表をする。段取りは全てオレがやるから、出席者のリストアップだけ頼む」
談笑していたおじさんと、おばさん、二人して固まっていた。
だって、話しが早すぎるんだもの。
驚くのも無理ない。
僕が、ここに来て、まだ十時間もたってないのに・・・まさに、急転直下。
「佳大、本気なの⁉」
おばさんが、佳大さんに念を押すように何回も同じことを聞いていた。
「未央が、高校を卒業するまで待つと言っていたのに。学校はどうするの⁉もし・・・」
「言われなくても分かっている」
佳大さんが、僕を座蒲団の上にそっと、下ろしてくれた。
「早く孫の顔が見たいって言ったの、母さんだよね⁉なら、文句ないだろ⁉」
有無をいわせぬオーラを身に纏った彼に、おじさんと、おばさんも、異義を唱える事は出来ず。
騒ぎを聞きつけてきた、理人先輩と頼人先輩からは、「やるじゃん、未央」「大人しいだけだと思っていたら、ヘェ~意外」と、また、好奇の目で見られ、冷やかされた。
アツは・・・というと、ある一定の距離を保ち、冷めた目で見てた。
心に、見えない矢を射たれたようにーー苦しくて、辛くて・・・。
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