10 / 120

アツの決意

アツに手を引かれ、真っ直ぐ向かったのは、校門から歩いて五分も掛からない、彼の叔父さんが院長をしている小さな診療所。 「おぅ、アツ‼久しぶり‼珍しいな、未央ちゃんまで」 黒縁の眼鏡を掛けた、大柄の男性が出迎えてくれた。 寝癖でくしゃくしゃの髪を掻き上げながら、何回も欠伸をして、眠そうに眼を擦っていた。 「大志さん、すみません。診察が始まるまで、待ち合い室を借りてもいいですか⁉」 「おう、構わないぞ。あれ、学校は⁉」 アツは、バツが悪そうに顔を逸らした。 「あぁ、分かった‼サボりか⁉」 「だって、うちだと、佳兄の目が光ってて、未央と全然会話が出来ないから・・・その・・・」 「お前も色々と大変だな。でも、もっと大変なのは、未央ちゃんの方か。佳大と結婚するそうだな」 思わず上唇を噛み締めた。 「大志さん」 アツが、彼に目で何かを訴えた。 「・・・まぁ、好きに使え」 事情を汲んでくれたみたいで、それ以上は聞いてこなかった。 そのあと、待ち合い室に案内してくれて。 アツと、二人きりにしてくれた。 「なぁ、未央、このまま、佳兄の言いなりになるの、嫌だろ⁉」 「アツ⁉」 「ささやかな抵抗をしてみない⁉」 アツを見ると、自信に満ち溢れた表情をしていた。 「駆け落ちの予行練習・・・なんて、どうだ⁉どうせ、すぐ見つかるんだ。なるべく遠くに行ってみないか⁉」 「アツと・・・二人きりで⁉」 「当たり前だ。決行は、金曜日の夜ーー」 「・・・」 アツの決意は、揺るぎないものだった。 普段は決して見せない、真摯なその眼差しに、胸の高鳴りが止まらない。 「未央が産まれて、両性だと分かって、医学的にも、稀有なその存在は、研究価値があるとかで、親同士の口約束で、佳兄と結婚させるって、勝手に決めたんだ。俺、そういうの、だっ嫌い。だって、未央の事が、好きなのに、諦めないといけないんだよ。そんなの、イヤだろ 」 嘘偽りのないアツの本当の気持ち。 すごく、すごく嬉しい。 でもーー。 「アツ・・・彼女・・・は?」 蓋をしたはずの彼への思い。 (・・・アツが好き) 今すぐにでも、本音を吐露しそうになり、慌てて、自分を律した。

ともだちにシェアしよう!