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アツの決意
アツに手を引かれ、真っ直ぐ向かったのは、校門から歩いて五分も掛からない、彼の叔父さんが院長をしている小さな診療所。
「おぅ、アツ‼久しぶり‼珍しいな、未央ちゃんまで」
黒縁の眼鏡を掛けた、大柄の男性が出迎えてくれた。
寝癖でくしゃくしゃの髪を掻き上げながら、何回も欠伸をして、眠そうに眼を擦っていた。
「大志さん、すみません。診察が始まるまで、待ち合い室を借りてもいいですか⁉」
「おう、構わないぞ。あれ、学校は⁉」
アツは、バツが悪そうに顔を逸らした。
「あぁ、分かった‼サボりか⁉」
「だって、うちだと、佳兄の目が光ってて、未央と全然会話が出来ないから・・・その・・・」
「お前も色々と大変だな。でも、もっと大変なのは、未央ちゃんの方か。佳大と結婚するそうだな」
思わず上唇を噛み締めた。
「大志さん」
アツが、彼に目で何かを訴えた。
「・・・まぁ、好きに使え」
事情を汲んでくれたみたいで、それ以上は聞いてこなかった。
そのあと、待ち合い室に案内してくれて。
アツと、二人きりにしてくれた。
「なぁ、未央、このまま、佳兄の言いなりになるの、嫌だろ⁉」
「アツ⁉」
「ささやかな抵抗をしてみない⁉」
アツを見ると、自信に満ち溢れた表情をしていた。
「駆け落ちの予行練習・・・なんて、どうだ⁉どうせ、すぐ見つかるんだ。なるべく遠くに行ってみないか⁉」
「アツと・・・二人きりで⁉」
「当たり前だ。決行は、金曜日の夜ーー」
「・・・」
アツの決意は、揺るぎないものだった。
普段は決して見せない、真摯なその眼差しに、胸の高鳴りが止まらない。
「未央が産まれて、両性だと分かって、医学的にも、稀有なその存在は、研究価値があるとかで、親同士の口約束で、佳兄と結婚させるって、勝手に決めたんだ。俺、そういうの、だっ嫌い。だって、未央の事が、好きなのに、諦めないといけないんだよ。そんなの、イヤだろ
」
嘘偽りのないアツの本当の気持ち。
すごく、すごく嬉しい。
でもーー。
「アツ・・・彼女・・・は?」
蓋をしたはずの彼への思い。
(・・・アツが好き)
今すぐにでも、本音を吐露しそうになり、慌てて、自分を律した。
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