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一途に愛されて・・・揺らぐ気持ち
その日の夕方。
台所で、雅枝さんと夕飯の準備をしていたら、アツが邪魔しに来た。
「雅枝さん見てるし、暑苦しいから、いい加減離れて‼」
「佳兄が来るまでいいだろ⁉」
腰にしっかりと、彼の腕が回されてて。
雅枝さんは、相変わらず、見てみぬ振りしてくれてるからいいけど、これじゃあ、思うように動けない。
アツの事、怪我させるかもしれないし。
そうなったら、大変。
「佳大さん、仕事が忙しくて、前日に来るって・・・だから、来ないよ」
「さぁ、どうかな⁉ああ見えて、愛妻家だから、佳兄は」
「愛妻家って・・・」
皮肉たっぷり、嫌みたっぷり。
今日のアツは、いつもと違って、なんかヘン。
「ほら、噂をすれば・・・俺が一緒だと、佳兄、焼きもち妬いて大変だから、部屋に戻るな。あと、未央、あの事はくれぐれも・・・」
腕を離すとき、彼の唇が、耳朶に触れた。
(な・い・しょ・だ・よ)
「アツ‼」
顔から火が出そうになった。
心臓バクバクいってるし。
ケラケラと笑いながら、素早くいなくなった。
(わざとからかわれた⁉もしかして⁉)
代わりに、血相を変えて、飛び込んできたのは、佳大さん。
「未央‼未央‼未央‼」
ゼイゼイ、ハアハアと、忙しく息を切らしながら、舌を噛みそうになりながら、何度も、僕の名前を口にしてた。
「佳大さん、大丈夫ですか⁉」
「未央の方こそ、大丈夫⁉具合が悪かったんだろ⁉もう、なんともない⁉母さんに頼んで、大学病院を紹介して貰おうか⁉」
「たいした事じゃないから。少し、目眩がしただけ・・・」
アツと打合せした通りの嘘を付いた。
そうでもしないと、勘の鋭い彼の事だから、疑われるからって、アツが。
「え・・・⁉」
おでこに、彼の手が押し当てられた。
ひんやりして気持ちいい・・・。
「熱はないようだね⁉良かった・・・未央に、万一の事があったら、と思うと気が気じゃなくて、仕事どころではなかった」
優しく微笑み掛けられ・・・。
真っ直ぐに見詰められーー。
嘘なのに、何で、優しくしてくれるの⁉
罪悪感からか、胸が苦しくなった。
ごめんなさい、佳大さん。
嘘つきの僕を許して・・・。
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