12 / 120

一途に愛されて・・・揺らぐ気持ち

その日の夕方。 台所で、雅枝さんと夕飯の準備をしていたら、アツが邪魔しに来た。 「雅枝さん見てるし、暑苦しいから、いい加減離れて‼」 「佳兄が来るまでいいだろ⁉」 腰にしっかりと、彼の腕が回されてて。 雅枝さんは、相変わらず、見てみぬ振りしてくれてるからいいけど、これじゃあ、思うように動けない。 アツの事、怪我させるかもしれないし。 そうなったら、大変。 「佳大さん、仕事が忙しくて、前日に来るって・・・だから、来ないよ」 「さぁ、どうかな⁉ああ見えて、愛妻家だから、佳兄は」 「愛妻家って・・・」 皮肉たっぷり、嫌みたっぷり。 今日のアツは、いつもと違って、なんかヘン。 「ほら、噂をすれば・・・俺が一緒だと、佳兄、焼きもち妬いて大変だから、部屋に戻るな。あと、未央、あの事はくれぐれも・・・」 腕を離すとき、彼の唇が、耳朶に触れた。 (な・い・しょ・だ・よ) 「アツ‼」 顔から火が出そうになった。 心臓バクバクいってるし。 ケラケラと笑いながら、素早くいなくなった。 (わざとからかわれた⁉もしかして⁉) 代わりに、血相を変えて、飛び込んできたのは、佳大さん。 「未央‼未央‼未央‼」 ゼイゼイ、ハアハアと、忙しく息を切らしながら、舌を噛みそうになりながら、何度も、僕の名前を口にしてた。 「佳大さん、大丈夫ですか⁉」 「未央の方こそ、大丈夫⁉具合が悪かったんだろ⁉もう、なんともない⁉母さんに頼んで、大学病院を紹介して貰おうか⁉」 「たいした事じゃないから。少し、目眩がしただけ・・・」 アツと打合せした通りの嘘を付いた。 そうでもしないと、勘の鋭い彼の事だから、疑われるからって、アツが。 「え・・・⁉」 おでこに、彼の手が押し当てられた。 ひんやりして気持ちいい・・・。 「熱はないようだね⁉良かった・・・未央に、万一の事があったら、と思うと気が気じゃなくて、仕事どころではなかった」 優しく微笑み掛けられ・・・。 真っ直ぐに見詰められーー。 嘘なのに、何で、優しくしてくれるの⁉ 罪悪感からか、胸が苦しくなった。 ごめんなさい、佳大さん。 嘘つきの僕を許して・・・。

ともだちにシェアしよう!