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駆け落ち予行練習 決行当日
「・・・じゃあ、僕、捨てられたの⁉悪い子だから?いい子じゃないから?」
「・・・未央・・・許してくれ・・・」
そっか、そうなんだ。
だから、迎えにも来てくれなかったし、連絡も寄越してくれなかったんだ。
ねえ、父さん・・・父さんや、父さんの会社や、弟を守る為、僕がどれだけ辛い思いをして、佳大さんとの結婚を決めたと思うの⁉
みにくいあひるのこと、罵られ、さげずまれーーそれでも、僕は、父さんが守ってくれると信じていたのに・・・。
これから僕は、誰を信じ、生きていけばいいの⁉
帰る家さえもうないのーー。
ヨロヨロと、足元から崩れ落ちていく体。
駆けつけたアツが、そっと、抱き止めてくれた。
「あとは、寺田に任せて、教室に行こう」
「うん、でも・・・」
アツに体を支えて貰い、何とか立ち上がり、歩き始めたものの、後ろ髪を引かれる思いで、何度も後ろを振り返った。
警備員さんに両脇を抱えられ、連れ出される父さん。寺田さんは、その後に続く。
「未央‼」
アツに何度も注意され、なんとなく理解した。もう、”中澤未央”でなく、”鬼頭未央”になったことをーー。
「毎年、かなりの額の使途不明金が出ていたんです。佳大様は、未央さんのお父様だからと、表立って追及することはされませんでしたが、流石に今回は、そういうわけにもいかなくなったみたいです。横領、粉飾決算での告訴も検討されているみたいです。あくまで、佳大様は、未央さんの為、穏便な方法での解決策を模索したみたいですがーー」
帰りの車の中で寺田さんが教えてくれた。
「佳大様は、あぁ見えて、愛妻家ですから」
しかも、寺田さんにまで、アツと同じ事を言わてしまった。
ムギュッと、不意に、手を握られて。
吃驚して、隣に座るアツの顔を見上げたら、憮然とした表情を浮かべていた。
もしかして・・・焼きもちを妬いた⁉
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