18 / 120
予行練習じゃないの⁉
車窓から眺める暗い空が、次第に白み始めた。
「少しは寝れた⁉」
「うん、アツは⁉」
「俺も少しだけ・・・もうじき着くよ。お祖父ちゃんが迎えに来てくれてる」
「まだ、五時前なのに、何か、申し訳ないね」
「気にしなくていいよ。孫は可愛いってよく言うだろ⁉」
「うん」
アツの口唇が、額と頬に触れーー。
「大好きだよ」
甘く囁かれ、唇をそっと塞がれた。
繋いでいた手に力が込められ、彼への思いが今にも溢れそうになった。
(アツ、僕ね・・・)
彼にちゃんと言わないと。
自分の気持ち・・・。
「着いたよ」
彼の唇が名残惜しそうに離れていった。
「そんな、哀しそうな顔をするな。キスくらい、いつでもしてやるから」
「アツ‼」
朝っぱらから、何してんだか。
バスを降りると、アツのお祖父ちゃんが笑顔で待っていてくれた。小さい頃、何度か会ったことがある。
髪はすっかり白髪になったけど、品の良さと、優しい眼差しは、記憶に残っている「たもつせんせい」のまま変わらない。
「まさか、本当に駆け落ちしてくるとは思わなかった」
「ごめん。どうせ、すぐ、佳兄が連れ戻しにくると思うから、それまで、匿って欲しい」
「あぁ、勿論だ」
二人の会話に頭が付いていけない。
「アツ、予行練習じゃなかったの⁉」
「ごめん、嘘ついた」
何事もなかったように、しれっとして彼。
「えぇ‼」
僕は、腰を抜かすほど驚いたのに‼
ともだちにシェアしよう!