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束の間のしあわせ
アツに体を支えてもらって、一階へ恐る恐る下りていくと、沢山のご近所さんが、笑顔で出迎えてくれた。
「男の子みたいで、なんて、可愛らしいんでしょう‼」
「ちっちゃくて、男の子みたいで、可愛い‼」
「あ、あの・・・」
男の子みたいーーじゃなくて、男なんだけど。
本当は・・・。
でも、みんなが、勘違いしてくれたお陰で助かった。なんとかバレずにすんで、ほっと胸を撫で下ろした。
テーブルに座ると、次から次に料理が運ばれてきた。
「手伝います」って、言ったけど、今日くらい、お客さまでいなさいって、アツのお祖母さんが。
アツにも同じことを言われ、甘えることにした。
「明日の朝から、コキ使ってください‼体だけは、丈夫ですから‼」
「あら、頼もしいわね」
お祖母さん、にこやかに笑っていた。
「これは、ここら辺の郷土料理で、ざくざくっていうお吸い物で、こっちは、ずんだあんのおはぎ・・・枝豆を潰したものよ。若い人のお口に合うかしら」
「甘いもの、大好きです‼頂きます‼」
折角作って頂いたんだもの。
食べないなんて、失礼にあたる。
一口、口に入れると、甘いあんと、もち米のもちもち感が、絶妙‼
すごく、おいしい‼
ざくざくっていう、お吸い物は、サイコロの形に切った、根菜類がこれでもかっていうくらい、具沢山で、これまた素朴な味が、とっても美味しい‼
「未央、俺のもいいよ」
アツが、自分の分を分けてくれた。
「いいの⁉」
嬉しすぎて、思わず声が裏返ってしまった。
そんな僕を、アツは、終始、穏やかな笑顔で見守ってくれていた。
「未央が、美味しそうに食べているの、見ているだけで幸せ」
「えぇーー!なにそれ」
アツが、せっせと、料理を小皿に取り分けてくれた。唐揚げも、エビチリも、海鮮のマリネも、とっても美味しくて、箸が止まらない。
「皆さん、ありがとうございます‼こんな僕の為に・・・」
感極まって、涙が滲んだ。
束の間の幸せなひとときは、こうして、あっという間に過ぎていった。
アツとの別れが、刻一刻と近付いているなんて、この時は、知るよしもなかった。
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