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アツとの別れ

しばらくの間、アツは、佳大さんと言葉も交わさず、静かに対峙していた。 握り締めてくれる彼の手は汗ばんでいた。 「・・・せめて、映画ぐらい一緒に観せてよ。未央と、最後の記念に・・・あと、駆け落ちごっこじゃないから。本気で、佳兄から未央を奪いたかった」 アツは、苦しい胸のうちを、思いの丈を佳大さんにぶつけた。 「お前みたいな子供に何が出来る⁉未央を幸せに出来るのは、俺以外、誰もいない」 「佳兄は、ズルいよ。俺や、未央の気持ちを知った上で、引き剥がそうとするんだから」 佳大さんは答えなかった。 アツは、彼を睨み付けていた。 「ーー映画、観に行かないのか⁉」 暫しの沈黙の後、佳大さんが急に口を開いた。 「行っていいの⁉」 「あぁ。そこまで鬼じゃない」 佳大さんの許可が下りて、アツは、僕の手を引っ張って駆け出した。 「急ごう」 「うん」 チケットは購入済みで、映画館に着くと、係りの人に渡し、薄暗い通路を進んだ。 後ろの方の右端の二席がちょうど空いてて、そこに座った。 「間に合って良かった」 アツと少しでも長く一緒にいたくて、彼の腕にしがみついた。 「未央・・・」 「離れたくない」 「ごめんな、守ってやれるだけの力がなくて。男として、情けない」 「そんな事ないよ」 努めて明るく振る舞った。 アツの悲しむ顔を見たくないもの。 彼には、常に笑っていて欲しいから。 映画の上映が始まり、遅れて佳大さんも入ってきて、監視するように、すぐ、近くの席に座った。 一緒に過ごせるのも、あと二時間弱。 彼の胸に顔を埋め、願った。 神様、時間をどうか止めて‼ 大好きな彼と、どんなに貧しくてもいいから、寄り添って生きる、チャンスを僕にちょうだい‼

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