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決して永遠の別れじゃない‼
映画は終盤へと差し掛かり、主人公の少女は、年上の男性との泥沼化した不倫関係に、自ら終止符を打ち、一途に自分を想い、待ってくれた幼馴染みの許へと走るも、悲劇的な最後が待っていたーー。
エンディング曲と共にエンドロールが流れはじめる頃には、あちらこちらで、啜り泣く声がしていた。
僕も涙を堪えきれず、何度も手で目を拭った。
映画を見て泣いている訳じゃない。
アツと別れなければいけない、悲しみと悔しさに涙が次から次に溢れ、頬を濡らしていた。
やがて、劇場内が明るくなり、みなが、退席するなか、僕は座席から立ち上がれないでいた。
アツは、何も言わず、そんな僕に寄り添ってくれた。
彼の温もりや、心音が、さらに涙を誘う。
「離れたくない・・・アツと一緒にいたい・・・」
「未央・・・」
「なんでアツと別れなくちゃいけないの⁉やっと両思いになれたのに。なんで⁉」
鼻を何度も啜りながら、何も出来ない己れの不甲斐なさに無性に腹が立った。
「・・・俺・・・」
アツが何かを言い掛けた。
でも、佳大さんが割り込んできて、彼が何を言いたかったのか、最後まで分からず仕舞いだった。
「未央、そろそろ行こうか」
グイッと、手首を掴まれ、座席から引っ張り出された。
「僕は、アツが好き。一緒にずっといたい。家には帰りたくない‼」
無駄な抵抗だと分かってはいたけど、何もしないよりはマシ。手足をバタつかせ、必死に暴れた。
佳大さんは、そんな僕を冷ややかな眼差しで見下ろし、
「随分と威勢がいいな」
皮肉たっぷりな口振りで冷笑していた。
「時間があまりないんだ、行くぞ。文句はあとで、じっくり聞いてやる・・・勿論ベットの中でな」
「佳大さん、離して‼」
ものすごく強い力でぐんぐん引っ張られ、劇場の出入り口で、堪らずアツの方を振り返ると、彼は、さっきの男性たちに、取り囲まれ、身動きがとれないようだった。
「アツ‼」
「アツ‼」
何度、大好きな彼の名前を口にしたのか。
回数なんて覚えてない。
騒然とするお客さんの波を掻き分け、外に駐車してあったタクシーの後部座席に押し込まれるまで、泣き叫び続け、走り出した車内でも声が嗄れるまで泣き続け、アツの名前を口にし続けた。
決して永遠の別れじゃない。
いつか、必ず、帰るから、待ってて。
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