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帰りたいのに帰れない

市街地を抜け、左右に田園風景が広がる大きな道路を走り続ける事約四十分。突如として現れたのは、F空港。 手を引っ張られ、タクシーから下ろされ、彼が向かったのはあまり人気のない、閑散とした国際線の受付カウンター。 (佳大さん、僕、パスポートないよ) 声が嗄れてて、どんなに話し掛けても、彼には届かない。 「未央、行くよ」 手続きは五分と掛からなかった。月に二便しか国際線がないみたいで、職員の案内で、少し離れた国内線の出発ロビーへ早足で向かった。 (佳大さん‼) ブンブンと、腕を強く振ると、ようやく気が付いてくれた。 「色々考えたんだよ。どうしたら、未央をアツに奪われないか、一人占め出来るかって・・・まぁ、いずれは海外に移住しようと前々から計画していたから、予定が大分早まったけど、これで、アツに奪われる心配もないし、一人占め出来る」 「・・・い・・・ゃ・・・」 声を絞り出した。 「お前に拒否権はない。ほら行くぞ」 首を振って、イヤイヤを繰り返すも、手首を強く掴まれ、そのまま搭乗口に引き摺られてむかった。建物を出ると、すぐ目の前に停まっていた、小型のジェット機に、佳大さんに引っ張られ乗り込んだ。 「知人のプライベード機を借りた。すぐに出発するから、さっさと座れ」 窓側の座席に押し込まれ、佳大さんが、隣に腰を下ろすと同時に、ドアが閉まり、機体が滑走路をゆっくりと移動し始めた。 (やだ、やだ、やだ) 底の見えない恐怖心に急に襲われ、半狂乱になりながら、バンバンと窓を叩いた。 「いい加減、諦めろ」 佳大さんの声は呆れていた。 (いや‼いや‼) 何度も首を振り、どうにかして、ここから、逃げようとしたけど。 佳大さんの体が重なってきて、上顎を救い上げられ、気が付けば、唇を奪われていた。 涙が一筋、頬を流れーー。 機体が浮上を始め、滑走路から、どんどん離れていった。

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