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アツ、ごめん・・・

どんなに泣いても、生きている限り、お腹は空く。 (・・・買い物・・・行かなきゃ・・・) ふらふらっと、立ち上がり、財布と鍵と電卓が入ったエコバックを持って、足を引き摺りながら、家を出た。 何度も階段でこけそうになりながら、三階から、一階へ下り、外に出た。夕方になっても、まだ、ムシ暑くて汗が滲む。 通りには、人も車も多い。横断歩道がないから、左右を確認してから走って渡って、斜め向かいの小さなスーパーへ。 日常生活に最低限度必要な、生鮮品・日地品を扱っているから、ここで、充分用が足りる。 言葉が全く通じなくて、毎回、ドキドキしながら、笑顔とジェスチャーで、なんとか誤魔化して切り抜けている。ちゃんと、英語の勉強をしておけば良かったって、今更の様に反省してる。 お金は、佳大さんに、何回も教えられ、一タラが、だいだい50円。支払う前に、紙幣のゼロの数と電卓とにらめっこして、間違わないように気を付けてはいるけど、やっぱり、僕の頭では、ちょっと難しい。 じゃがいもみたいなのと、青物野菜と、白身魚一匹を購入した。切り身魚は、ちょっと割高だし、品数も少ないから。なるべく、安く押さえないと。 魚を下ろすのは、苦手で、下手で。身がぐぢゃぐぢゃになることもあるけど、佳大さんは、文句一つ言わず、美味しいって食べてくれる。 「〇△×・・」 会計を済ませ、エコバックを受け取ると、店員さんに声を掛けられた。 早口で、何を言ってるのかさっぱり分からない。こういうとき、佳大さんがいてくれたら心強いのに。 手渡されたのは・・・手のひらサイズの・・・お菓子かな⁉包みがピンクで可愛らしい。 笑顔で、どうぞ、どうぞって感じだから、貰って大丈夫だよね⁉ 家に戻り、その包みをテーブルの上に置いた。よく分からないから、佳大さんが来てから、開けてみよう。 こっちに来てから夕飯は、お魚メインになった。じゃがいものスープの味を見てたら、バタンって音がして。 振り返ると、佳大さんの逞しい腕に抱き締められていた。 「ただいま。寂しくなかった⁉」 彼は決まって、額や、頬っぺた、こめかみや、項、あちこちにキスを雨の様に降らせ、最後に、顎を救い上げて、唇に口付けをする。 いつもなら、これで、満足して離してくれる。 でも、今日は・・・。 片手で、ガスの火を消すと、そのまま、僕を抱き上げ、テーブルの上の包みを鷲掴みして、真っ直ぐ、奥の寝室へ向かった。 「待って‼佳大さん‼」 手足をバタつかせて、下ろして‼って何度も頼んだけど、彼の耳には届かない。 「ご飯より、未央がいい」 ドサッと、ベットの上に下ろされ、上着を脱ぎ捨てた佳大さんが、すぐに覆い被さってきた。 「イヤ‼イヤ‼」 ぶんぶんと何度も頭を振ったけど、すぐに、唇を奪われ、彼の手は、胸元から、脇腹、下腹部へと滑り落ち、短パンの中に差し入れられた。 「そこは、やぁだ‼」 彼の長い親指と人差し指が陰茎に絡み付き、薬指が、秘めた割れ目の出入り口を撫で始めた。 その瞬間、ザワザワと、全身に鳥肌が立った。 触られるのがイヤでイヤで仕方ない。 嫌悪感と、吐き気に襲われた。 「未央・・・ようやく、初夜だな・・・」 彼の一言は、僕を底の見えない絶望へと突き落とした。 ーーアツ、ごめんね。 悔し涙が静かに頬を伝った。

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