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新しい命
先生自ら、佳大さんを呼び出した。
詳しい検査をしてみないと分かりませんが、と前置きをした上で、
「最終月経日から推察して、6週から、7週目くらいでしょう」
そう説明をしてくれた。
「・・・そうですか・・・」
しばらく間があいて、佳大さんは落ち着いた声で答えた。
手放しで喜ぶわけでもない。
冷静沈着そのもの。
勘の鋭い彼。
勿論、頭もいいからーー。
僕のお腹に宿った新しい命は、自分のでなく、アツとの子・・・その表情は、そう物語っていた。
『アツとの子供なら堕ろせ‼』
絶対、そう言うに決まってる。
僕は、お腹を護るように、両手で覆い隠した。
「もし、望まない妊娠なら・・・」
先生が彼の態度を見て切り出した。
(どうしよう・・・どうしよう・・・)
焦りばかりが募る。
額や、掌は、汗でビッショリだ。
「すみません。驚き過ぎて、言葉が見つからなかったので・・・妻には、元気な子供を産んでもらいたいです」
少しだけ、彼の表情が明るくなった。
「日本で産んだ方が、助成も受けられますよ。ここだと、かなりの高額になりますけど、それでも⁉」
「大丈夫です。妻の出産に関わる費用一切、心配無用です」
(佳大さん、本当に、産んでいいの⁉)
恐る恐る顔を上げ、彼を見詰めた。
目が合い、返ってきたのは、意外にも優しい笑顔だった。
「悲しい顔をしていたら、お腹の赤ちゃんまで悲しくなる。ほら、笑うんだ・・・未央には笑顔が似合う」
そんな、いきなり言われても・・・。
「未央‼」
迷っていたら、彼に、名前を呼ばれて。
もう、びっくりして、ニコニコって笑い返した。
かなり、ぎこちないけど、怒らないでね。
これでも、一生懸命、笑おうと頑張っているんだからね‼
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