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結婚指輪
「第一王子といっても、母違いの姉が六人もいて、一番上の姉とは、二十以上年が離れているが・・・政は姉の夫がしっかりと実権を握っていて、オレが即位することは皆無だ」
ディネシュさんが僕にぐいぐいと近付いてきて、白い歯を見せたかと思ったら、ブチュッと、唇に彼のが重なっていた。
「ディネシュ‼」
佳大さんが、慌てて彼を引き離した。
「挨拶だよ。キスぐらいいいだろ⁉」
「駄目なものは駄目」
ようやく佳大さんが、手を離してくれて、椅子に座るよう促された。
「彼が前に話したビジネスパートナー。このレストランを共同経営している。ここに来るときに乗った飛行機の持ち主。ちなみに、俺より三才年上。妻子持ち」
「妻子持ちは余計だ」
ディネシュさんは屈託のない笑顔を見せて、厨房へと戻っていった。
「あの笑顔に何人も騙されているんだ」
って佳大さん。
一夫多妻制の国だから、奥さんが何人もいるんだろうなって思ってはいたけど、人数を聞いてビックリした。
椅子に座ると、ウェートレスさんが、料理を運んできてくれた。
白いお皿の上に、カラフルな巻き寿司とサラダと、チキンの照り焼き。
お腹は別に空いてなかったけど、美味しそうな匂いに、思わず、フォークを手に取った。
「美味しい‼」
巻き寿司を、一口食べて、思わず歓声を上げた。卵の甘い味付けがクセになりそう。
久しぶりの日本の味を堪能した。
「佳大さんは⁉」
「俺はあとでいい。それよりも・・・」
彼が、上着のポケットをゴソゴソし始めた。
取り出したのは、銀色に輝く小さなわっか。
「それって、まさか・・・」
「結婚指輪だ」
彼の手が伸びてきて、とっさに左手をテーブル下に隠したけど、フォークを持つ右手首が掴まった。
「・・・指輪・・・したくない・・・」
「して貰わないと、俺が困る」
「ほんとに、したくないの・・・」
頭を横にぶんぶんと振った。
はめたら、彼の妻になったこと認める事になるから、絶対、嫌。
「I wish you every happiness.!」
(ご結婚おめでとうございます‼)
パチパチと手を叩きながら、店員さんたちが集まりだして。気が付けば、テーブルの回りに人だかりが出来ていた。
「未央、俺に恥をかかせる気か⁉」
佳大さんに言われーー渋々、フォークをお皿に置いて、右手を差し出した。
震える薬指に、夫婦の証しの指輪が静かに嵌められ、拍手喝采が巻き起こった。
佳大さんは、会心の笑みを浮かべていた。
僕は、悔しくて、今にも泣きそうになりながら、必死で涙を抑えた。
今日も、僕の心に涙の雨が降りしきるーー。
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