43 / 120

結婚指輪

「第一王子といっても、母違いの姉が六人もいて、一番上の姉とは、二十以上年が離れているが・・・政は姉の夫がしっかりと実権を握っていて、オレが即位することは皆無だ」 ディネシュさんが僕にぐいぐいと近付いてきて、白い歯を見せたかと思ったら、ブチュッと、唇に彼のが重なっていた。 「ディネシュ‼」 佳大さんが、慌てて彼を引き離した。 「挨拶だよ。キスぐらいいいだろ⁉」 「駄目なものは駄目」 ようやく佳大さんが、手を離してくれて、椅子に座るよう促された。 「彼が前に話したビジネスパートナー。このレストランを共同経営している。ここに来るときに乗った飛行機の持ち主。ちなみに、俺より三才年上。妻子持ち」 「妻子持ちは余計だ」 ディネシュさんは屈託のない笑顔を見せて、厨房へと戻っていった。 「あの笑顔に何人も騙されているんだ」 って佳大さん。 一夫多妻制の国だから、奥さんが何人もいるんだろうなって思ってはいたけど、人数を聞いてビックリした。 椅子に座ると、ウェートレスさんが、料理を運んできてくれた。 白いお皿の上に、カラフルな巻き寿司とサラダと、チキンの照り焼き。 お腹は別に空いてなかったけど、美味しそうな匂いに、思わず、フォークを手に取った。 「美味しい‼」 巻き寿司を、一口食べて、思わず歓声を上げた。卵の甘い味付けがクセになりそう。 久しぶりの日本の味を堪能した。 「佳大さんは⁉」 「俺はあとでいい。それよりも・・・」 彼が、上着のポケットをゴソゴソし始めた。 取り出したのは、銀色に輝く小さなわっか。 「それって、まさか・・・」 「結婚指輪だ」 彼の手が伸びてきて、とっさに左手をテーブル下に隠したけど、フォークを持つ右手首が掴まった。 「・・・指輪・・・したくない・・・」 「して貰わないと、俺が困る」 「ほんとに、したくないの・・・」 頭を横にぶんぶんと振った。 はめたら、彼の妻になったこと認める事になるから、絶対、嫌。 「I wish you every happiness.!」 (ご結婚おめでとうございます‼) パチパチと手を叩きながら、店員さんたちが集まりだして。気が付けば、テーブルの回りに人だかりが出来ていた。 「未央、俺に恥をかかせる気か⁉」 佳大さんに言われーー渋々、フォークをお皿に置いて、右手を差し出した。 震える薬指に、夫婦の証しの指輪が静かに嵌められ、拍手喝采が巻き起こった。 佳大さんは、会心の笑みを浮かべていた。 僕は、悔しくて、今にも泣きそうになりながら、必死で涙を抑えた。 今日も、僕の心に涙の雨が降りしきるーー。

ともだちにシェアしよう!