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二度と電話してくるな‼

何だろう。 すっごく、緊張する。 ソワソワと落ち着かない。 『ーー未央か?』 久し振りに聞くアツの声に、心臓はドキドキ。今にも、飛び出してきそう。 「うん‼」 嬉しくて、顔が綻ぶ。 「あのね、アツ、僕・・・」 『あぁ、聞いた。佳兄の子供を妊娠したって。ムカつくくらい幸せそうだな・・・』 苛立ちを露にするアツ。 憎しみや、怒りーー。 いつもの優しい声の主は、もうどこにもいなかった。 「アツ、聞いて」 ちゃんと真実を言えば元のアツに戻ってくれる。 そう信じていたのに。 僕の話しには、一切、耳を貸そうとはしてくれなかった。 『お前の声は聞きたくない‼もう二度と電話してくるな‼』 吐き捨てるように言うと、ブチっと一方的に電話を切った。 「アツ、待って・・・‼」 ちゃんと言いたかったのに・・・。 (この子の父親は、佳大さんじゃない、アツだよって) (アツ、パパになるんだよ、一緒に育てようって) それなのに、なんで、聞いてくれないの⁉ 一気に、絶望の底に突き落とされた。 なんで、運命は、こんなにも無情なの。 みにくいあひるの子は、幸せになっちゃいけないの⁉ 誰かおしえて・・・。 携帯を握り締め、声を上げ泣いた。 「未央・・・?」 泣き声に気が付いた佳大さんが駆け付けてくれた。 「大丈夫か?何で泣いてる?母さんにキツい事を言われたか⁉」 「ううん、違うの」 鼻を啜りながら、頭を横に振った。 「俺、さっき、まだ、早いだろうって怒られた。子供に子供を作って、リスクも考えないでって」 佳大さんの、大きな掌が髪に触れる。 いつもは、嫌で払い除けるのに。 不思議と、拒まなかった。 「俺が悪者になるーー全部、悪いのは俺。それでいいから、元気な子供を産んでくれ。なぁ、未央」 しかも、精神的に参っている時にそんな優しい事を言われたら・・・。 「佳大さん‼」 自分から彼の腕にしがみつき、泣き続けた。 彼が嬉しそうに目を細め、ほくそ笑んでいた事に、僕は気が付かなかった。 アツを忘れさせる為なら、手段は選ばない。 佳大さんは、そういう人だった。

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