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手紙
鼻を擽る炊きたてご飯のいい匂いと、お味噌汁の匂いで目が覚めた。
あっ、そうだ‼
雅枝さんのお手伝いしないと‼
慌てて飛び起きた。
「・・・ん?・・・未央?どうした?」
「起こして、ごめんなさい」
眠気眼を擦る佳大さんの腕をすり抜け、キッチンへ急いだ。
「雅枝さん、ごめんなさい。お手伝い、何もしないで」
「気にしないで下さい。冷蔵庫、勝手に開けさせて頂きました。了解も得ずにすみません」
「いえ、大丈夫です。何も無くて驚いたでしょ」
「お野菜とお魚があれば、どうにかなります」
流石、雅枝さんだ。
手際がいい。
あっという間に、朝ごはんの準備が完了した。
佳大さんも起きてきて、三人で食卓を囲んだ。
「日本の米はやっぱり美味しい。味噌汁も、なんか落ち着くっていうか・・・未央、熱いから気を付けろ」
甲斐甲斐しく世話を妬いてくれる佳大さん。
いつもの、三倍くらい優しい。
雅枝さんがいるせいかな?
食事を終えると、
「雅枝さん、何かあったらすぐ電話下さい」
そう言い残し、いつものように、慌ただしく出勤していった。
「未央ちゃん・・・いい?」
おばさんが寄越してくれた荷物を片付けていると、雅枝さんがちょっこりと顔を出した。
「これ、篤人様から、未央ちゃんに渡して欲しいと頼まれたんです。佳大様の前で出す訳にはいかないので、遅くなりすみません」
淡い水色の封筒を手渡された。
「中・・・見てもいいですか?」
「えぇ、勿論です」
俺の事、忘れて、佳兄と幸せになってくれ。内容は恐らくそうだろう。
覚悟して、便箋を広げた。
「何・・・これ・・・」
一枚目には、端から端まで、『大好き』の三文字が並んでいた。
「小学生の漢字の書き取りでしょう、これ・・・」
泣けるくらい笑える。
アツらしい。
「電話では、未央ちゃんに酷いことを仰ってましたが、ご家族様が近くにいた手前、あぁ言うしかなかったんですよ。電話を切られてから、ご自分の部屋で泣いておられました」
「アツが⁉嘘・・・」
驚きはやがて涙に代わった。
「篤人様はちゃんと分かってましたよ。未央ちゃんのお腹のお子様が、ご自分の子だと」
「雅枝さん・・・」
次から次に溢れ出る涙を、押さえられなかった。
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