48 / 120

手紙

鼻を擽る炊きたてご飯のいい匂いと、お味噌汁の匂いで目が覚めた。 あっ、そうだ‼ 雅枝さんのお手伝いしないと‼ 慌てて飛び起きた。 「・・・ん?・・・未央?どうした?」 「起こして、ごめんなさい」 眠気眼を擦る佳大さんの腕をすり抜け、キッチンへ急いだ。 「雅枝さん、ごめんなさい。お手伝い、何もしないで」 「気にしないで下さい。冷蔵庫、勝手に開けさせて頂きました。了解も得ずにすみません」 「いえ、大丈夫です。何も無くて驚いたでしょ」 「お野菜とお魚があれば、どうにかなります」 流石、雅枝さんだ。 手際がいい。 あっという間に、朝ごはんの準備が完了した。 佳大さんも起きてきて、三人で食卓を囲んだ。 「日本の米はやっぱり美味しい。味噌汁も、なんか落ち着くっていうか・・・未央、熱いから気を付けろ」 甲斐甲斐しく世話を妬いてくれる佳大さん。 いつもの、三倍くらい優しい。 雅枝さんがいるせいかな? 食事を終えると、 「雅枝さん、何かあったらすぐ電話下さい」 そう言い残し、いつものように、慌ただしく出勤していった。 「未央ちゃん・・・いい?」 おばさんが寄越してくれた荷物を片付けていると、雅枝さんがちょっこりと顔を出した。 「これ、篤人様から、未央ちゃんに渡して欲しいと頼まれたんです。佳大様の前で出す訳にはいかないので、遅くなりすみません」 淡い水色の封筒を手渡された。 「中・・・見てもいいですか?」 「えぇ、勿論です」 俺の事、忘れて、佳兄と幸せになってくれ。内容は恐らくそうだろう。 覚悟して、便箋を広げた。 「何・・・これ・・・」 一枚目には、端から端まで、『大好き』の三文字が並んでいた。 「小学生の漢字の書き取りでしょう、これ・・・」 泣けるくらい笑える。 アツらしい。 「電話では、未央ちゃんに酷いことを仰ってましたが、ご家族様が近くにいた手前、あぁ言うしかなかったんですよ。電話を切られてから、ご自分の部屋で泣いておられました」 「アツが⁉嘘・・・」 驚きはやがて涙に代わった。 「篤人様はちゃんと分かってましたよ。未央ちゃんのお腹のお子様が、ご自分の子だと」 「雅枝さん・・・」 次から次に溢れ出る涙を、押さえられなかった。

ともだちにシェアしよう!