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今ならあの人の気持ち、分かるかも
「雅枝さん、ごめんなさい。家の事、任せっきりで・・・」
「いいんですよ、その為に、ここに来たんですから」
「赤ちゃんがお腹にいるって、こんなにも大変なんですね。僕、甘く見てました」
日を追う毎に眠気と全身の怠さで、一日中、横になっている事が多くなった。
つわりはなかったものの、食欲が沸かなくて。
一食分を何回にも分けて少しずつ食べるのが精一杯。
「あの人、悪阻が酷くて、一ヶ月近く入院していたんです」
「あの人って・・・お母さんのこと?」
「雅枝さん、あの・・・」
ずっと、胸の中にしまっていたあの人の事。
二度と思い出すことはない。そう思っていたのに。
「話したいことは、全部、話して下さい。それで、未央ちゃんの気持ちが楽になるのでしたら」
「ありがとう、雅枝さん・・・あの人、最初に会った時、息子とは思わないから、私の事、母とは絶対呼ばないで・・・あなたみいな気色悪い子の母親なんて死んでも嫌。そう言ったんです。でも、あの人も、大変だったんですよね。初めての赤ちゃん、授かって・・・僕は、アツや、雅枝さんや、佳大さんがいてくれるからいいけど、あの人はひとりぼっちだった・・・父は、あまり協力的じゃなかったから。今なら、あの人の気持ち少しは分かるような気がして・・・」
「未央ちゃんは優しいのね」
「そんな事ないです」
「あれだけ酷いことをされたのに・・・偉いわ」
「もう忘れます。あの人の事も、父の事もーー弟の事も全部。僕は、空気みたいな存在だったから」
「未央ちゃん、あなたっていう子は・・・どこまで健気なんでしょう」
雅枝さん、手で目頭を押さえていた。
本当はね、一目でいいから、弟に会いたかった。兄なのに、顔も分からないなんて、辛すぎる。
「沢山、お話しをして疲れたでしょう。ゆっくりお休み下さい」
「ありがとう雅枝さん」
タオルケットをお腹に掛けて貰うと、また、眠くなってきた。
一日の大半、寝てるのに、それでも眠いなんて・・・。
ぐうたらしてて、ごめんなさい。
動けるようになったら、ちゃんとお手伝いしますから、雅枝さん、許してください。
「未央、名前なんだけど、『カナト』なんてどうだ?」
「えっ⁉」
「変か?なら、ハルト、ユウト・・・」
その日の夜ーー。
帰宅した佳大さんが、開口一番、アツと同じ名前を口にしたから、ビックリした。
しかも、百パーセント男の子だと断言していたから、二度驚いた。
流石、兄弟‼
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