56 / 120

佳大さんにはナイショの約束

プルル~ プルル~ 着信音が鳴り続いてる。 アツ、なかなか電話に出てくれない。 間違い電話だと思ってるのかな? 知らない番号から掛けているんだもの。イタズラだと思うよね、普通。 僕だよアツ。 お願いだから、電話に出て。 『・・・はい、もしもし・・・』 ようやく聞けた‼ 大好きな彼の声。 飛び上がるぐらい嬉しい‼ 「アツ、未央だよ」 『未央・・・?嘘・・・?マジ・・・⁉佳兄、よく許してくれたな』 「佳大さんには内緒。今日、妊婦検診があって、担当の先生に借りたの」 『妊婦検診?・・・そうだ‼未央‼名前付けないと』 アツの慌てっぷりに、思わず吹き出しそうになった。 「あのね、”奏でる”の奏に、アツの下の名前貰って、奏人って名付けたの。ごめんね、アツに相談しなくて」 『いいよ、そんなの、気にしてないから。奏人かぁ~。俺、父親になるんだな。すげぇ、嬉しい。そうだ、未央‼それより体調は?母さん、悪阻が酷いんじゃないかって、心配していたから』 「悪阻はないの。一応、男だから・・・みたい。先生の話しでは・・・。体調は・・・あんまり良くない。でもね、赤ちゃんは順調に育ってるから、心配しないで」 『たく、お前はいつもそう。辛いことがあっても、我慢して、心配しないでって言う。もう、我慢するな』 「だって・・・」 アツの声を聞いただけで、目が潤んでいるのに。 そんな優しい事言われたら、今にも、涙腺が崩壊しちゃうよ。 『未央』 アツ、宥めるように、名前を呼んでくれた。 佳大さんに奪われた、何気無い幸せ。 ようやく、この手に戻ってきてくれた。 「アツに会いたいよ・・・日本に・・・帰りたいよ・・・」 『未央、偉いぞ。我慢しないで言えたな。自分の気持ちを』 「うん」 涙に滲む声で頷くと、彼、急に小声になった。 『近いうちに迎えに行く。佳兄を説得出来る、強力な助っ人を連れていくから、もう少しだけ、辛抱してくれ。そっちには、雅枝さんもいるし。あと、この話しは、佳兄にはナイショ。俺と未央だけの約束だ』 「分かった」 アツと話していたら、ガタンと、ドアが開いて、慌てて、電話を切った。 ごめんね、アツ。 一方的に、電話を切って・・・。 だって、内緒の約束だもの。

ともだちにシェアしよう!