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自分勝手な彼
入ってきたのは雅枝さんだった。
目が合い、慌てて、携帯を手の中に隠した。
「私は、何も聞いてませんし、何も見てませんよ。それよりも、佳大様が今、こちらに向かってるそうです・・・」
「嘘、何で!?」
「未央ちゃんの体調が心配だからなのか、余計な事をしないか、そっちが心配なのか、よくは分かりませんが。まぁ、とにかく、横になって。携帯は私の方から先生に返しておきます」
「雅枝さん、ありがとう」
「いいんですよ。それにしても、大きい病院ですね。一階に売店があると聞いて行ってみたんですけど、途中で迷子になり戻ってきました。
何か、飲み物を買ってきますね」
「お願いします」
雅枝さんに携帯を渡すと、それを持って、売店を探しにむかった。薄手の毛布に潜り込むと、ドダドダと足音が聞こえてきて、佳大さんが姿を現した。
「未央、具合大丈夫か?」
朝から爽やかで、機嫌のいい彼。
こっちは、体調が最悪なのに。
ぷいっとそっぽを向くと、
「昨日の事、怒ってるよな。ごめんな。未央の可愛い顔と、泣き顔を見ると、どうしても歯止めがきかなくなるんだ」
本当、自分勝手な人。
「奏人、順調に育ってるって?」
彼と話しをしたくなくて、小さく頷いた。
「そっか。良かった」
お腹をそっと撫でてくれる彼。
「あの、佳大さん・・・」
「ん⁉」
「先生が話しがあるみたい。明日・・・」
「そう言われたんだが、明日はどうも都合が悪くて。だから、今日にして貰った。ちょっと行ってくる。俺がいなくて寂しいと思うが、少し、待ってろ」
僕の頬っぺたに軽く口づけをして、足取りも軽く、診察室に向かっていった。
三十分後。
みっちり先生にお灸を据えられて帰ってきた彼。
しょんぼりと項垂れている彼を見て思わず失笑したら、怒られた。
「帰ったら、すぐしよう」
って彼。全然、反省してない。
「佳大様‼」
そしたら彼。戻ってきた雅枝さんにも、しっかりお灸を据えられて、また、しょんぼりしていた。
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