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猜疑心
それから数日後。
雅枝さんの所に、お孫さん達からの荷物が届いた。
「決して、雅枝さんを疑う訳ではないのですが・・・」
「分かってます」
雅枝さん、佳大さんの見ている前で菓子箱の大きさほどの荷物を開けた。
彼、アツから僕宛の手紙が入っているんじゃないかって疑ってる。
箱の中には、可愛くラッピングされた焼き菓子と、お孫さん達からの手紙。
「毎年忘れず、こうして、誕生日プレゼントを贈ってくれるなんて、なんか、羨ましいです」
一通りチェックしてから、雅枝さんに返した。
「ここの焼き菓子美味しいんですよ。あとで食べましょう」
「そうですね」
佳大さん、疲れているのか、この頃あまり笑わない。
お仕事、忙しいのかな?
この前の事、まだ、引き摺っているのかな?
「手紙、開けて構いませんよ」
雅枝さんの許可が下り、佳大さん、便箋を広げた。
そこには、可愛らしい字で、大きく、
『ばあば、げんきですか?
おたんじょうびおめでとう!!
かのんも、まなかも、かりんもげんきです
おしごとがんばってね』
そう書いてあった。
「疑って、すみませんでした」
「気にしてませんよ」
「少し休んで、仕事に戻ります・・・」
雅枝さんに頭を下げると、今度は僕に視線を向けてきた。
「未央・・・添い寝して欲しい・・・だめか?」
顔色がなんだか悪い。
「佳大さん、具合が悪そうだよ。大丈夫?」
「この頃、あまり寝れないんだ。そのせいだろ」
佳大さんに手を引かれ、寝室にまっすぐ向かうと、疲れた、そう小さく呟いて、彼が先に布団に潜っていった。
「未央もおいで」
彼の隣に横になると、すぐに、抱き寄せられた。
「こうしていると、不思議と落ち着くんだ。未央、俺・・・今、すごく幸せだ・・・」
こんな僕を一途に愛してくれる彼。
気持ちは嬉しいけど・・・。
「今・・・何パーセント・・・・」
うわ言を口にしながら、静かに眠りに落ちていった。
勘の鋭い彼のことだから、おそらく、僕との別れの日が近いことを薄々感じているのかもしれない。
疲れの色が滲む彼の寝顔を眺めながら、起こさないようにそぉーーと抜け出した。
「未央ちゃん、ちょうど良かった。お茶にしませんか?」
「はい‼」
食欲が沸かなくても、甘いものと、酸っぱいものは、なぜか無性に食べたくなる。
そういえば、妊娠すると、味覚が変わるって、育児書に書いてあったっけ。
お皿の上に並んでいるのは、さっきの焼き菓子。マドレーヌに、フィナンシェ、ガレット。あと、チョコチップや、セサミ、ナッツのクッキー。どれも美味しそう。
雅枝さんが、病院の売店で見付けてきてくれたノンカフェインの紅茶をマグカップに淹れてくれた。
「未央ちゃん、これ・・・」
隠すようにテーブルの下で渡されたのは、小さなメッセージカードだった。
佳大さんに見つからないように、そっと、ズボンのポケットにしまった。
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