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僕から奏人まで奪わないで

「頂きます」 どれを食べるか散々迷った末、マドレーヌと、チョコチップクッキーを選んだ。 「おいひぃ」 口いっぱい頬張っていると、佳大さんが起きてきた。 「具合・・・どうですか?」 「さっきよりは、少しは良くなった」 「良かった。あっ、そうだ‼佳大さんも食べますか?」 雅枝さんが、佳大さんにも紅茶を淹れてくれた。 「なぁ、未央・・・」 言いにくそうに彼。 何だろう・・・そう思って、彼を見上げると、その表情は、みるみるうちに険しいものになっていった。 彼の気に障るような事をした覚えはない・・・はず・・・。 もしかして、さっきの見られていた? いや、そんなまさか・・・。 でも、ないとはいい切れない。 「言わなくても分かるよな?」 鋭い眼光で、いつになく低い声の彼。 僕の裏切りに腸が煮え繰り返っているのだろう。 きっと・・・。 「未央‼」 彼の怒声に、仕方なくポケットから、メッセージカードを取り出した。 「まだ、読んでないよ・・・僕・・・」 手も声も、わなわなと震える。 僕の力では、抗ってもどうにもならない。 だから、悔しくて・・・。 「未央、他の男との不貞は一切許さない。お前は、俺の妻だ。日本には絶対帰さないーーいいな?」 「佳大様、『他の男』って・・・ご自分の弟に、そんな酷い言い方・・・篤人様は・・・」 「その名前はもう聞きたくない。アイツはもう弟でもなんでもない。未央は、俺のだ」 佳大さん、助け船を出してくれた雅枝さんにも、人が変わったように怒りを露にした。 そして、僕に見せ付けるかのように、目の前で、カードをぶりぶりと細かく切り刻み、宙に放った。 ハラハラと、紙の花が舞うーー。 床にしゃがみこみ、下に落ちた紙くずをひろい集めた。悔しくて、涙も出ない。 その時、お腹にちくりと鈍い痛みが走った。 それは、徐々にひどくなっていって・・・ 「痛い‼痛い‼雅枝さん、助けて‼」 あまりの激痛に、お腹を押さえ、横に倒れ込んだ。 ドロリと、血の匂いのする生暖かいものが、内腿を下へと這うように流れ落ちるのを感じ、思わず叫んだ。 「佳大さん‼僕から奏人まで奪わないで‼」 そこで、プッツリと記憶が途絶えて、それからの事は覚えていない。

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