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佳大さんの本心
目が覚めて、最初に視界に入ってきたのは、淡い壁と、ブラインドがついた大きな窓と、腕に付けられた点滴のチューブ。
なんで・・・僕・・・ここにいるの?
ぼんやりと、昨日の記憶を辿る。
そうだ・・・
お腹が急に痛くなって、それから血の匂いがして・・・
「奏人は?」
「僕の奏人は‼」
慌てて飛び起きた。
「未央、大丈夫。心配ない。奏人は無事だ」
ふらつく体を、佳大さんが支えてくれた。
いつも冷たいと感じる彼の手、何故だろう。
すごく、温かい・・・。
「佳大様が、すぐに病院に連絡して、ドクターカーで乾先生が駆け付けてきてくれたんです。処置しながら搬送したので、大事には至りませんでした。でも、しばらく、入院が必要だと乾先生が」
「だから、大人しく寝てろ」
佳大さんも、雅枝さんも寝ずに看病をしてくれていたみたい。
ゆっくりと横になって、二人に、何度も「ありがとう」を繰り返した。
「未央、俺の方こそごめん。未央や、奏人まで失うところだった。本当にすまない」
「佳大さん・・・」
彼の目は赤く充血していて、目蓋も腫れていた。
「うわごとのように、よしおにいちゃん、ごめんなさいって、ずっと言ってたんですよ。それを聞いた佳大様は、辛い過去を思い出させてすまない、そう言って泣いておられました」
手を伸ばし、涙の後が残る彼の頬を指でそっとなぞった。
「佳大さん、ごめんなさい。助けて貰っておきながら、それを忘れて・・・僕の方こそ酷いことをしてごめんなさい」
「未央が謝る必要はない。俺がもっと、優しくすれば良かったんだ。前も言ったけど、未央を好きすぎて歯止めがきかなくなるんだ。アツに返さないと、そう思えば思うほど、一生閉じ込めておきたい、そんな、相反する感情に、自分でもどうしていいのか、分からなくなるんだ」
互いを隔てていた心の溝が、少しずつ、解けていくのを感じた。
「あのとき、無理矢理でも両親から引き離しておけば、継母に虐められる事もなかったのに。
父親が、どうしても親権を渡そうとしなかったんだ・・・どうせなら、未央が、アツを好きになる前に、俺を好きになって貰いたかった」
ようやく知ることが出来た彼の気持ち。
誰よりも、僕を大事にしてくれていたんだ。
そう思ったら、すごく嬉しくなって。
「佳大さん、どうしたの?」
それなのに、彼の表情はどんどん暗くなっていった。
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