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待ちに待った日本へ・・・待ち受けるのは深い闇
「だから、アツが王立大に入学して、その間、未央と奏人がこっちに住んでくれれば、喜んで、離婚届にサインしてやるよ」
「だから、そんな学力俺にはなって」
「未央を迎えに来るのに死ぬ気で勉強したお前の事だ。俺と未央を離婚させる為だ、まぁ、せいぜい頑張れ」
「あのなぁ・・・」
アツ頭を抱えていた。
広大な荒野の中に、突如として現れた国軍の基地の敷地内に、空港があった。
初めてこの国に降り立った時は、具合が悪くて周りの景色を見ている余裕なんてなかったから、改めてこうして見ると、やはり、日本とは違うんだな、そう感じた。
「どうせ、すぐに戻って来るよ」
ふわりと、佳大さんの大きな手が、僕の手を包み込み込んだ。
「俺は一生分の恋を未央に捧げた。だから、もう二度と誰とも恋をする気はない」
上に上げて、チュッと軽く手の甲にキスをされた。「未央、いつまでも愛してる」蕩けるような甘い声で囁かれ、心拍数が一気に跳ね上がった。
「佳兄‼未央は俺の‼」
アツが自分の方に引っ張ると、
「お前に貸してやるだけだ。未央は、俺の妻だ」
佳大さんも負けじと、自分の方に引っ張る。
独占欲を露にする彼。
「諦めようとすればするほど、未央への想いが増すばかりで・・・体の相性も最高だし、どうせなら俺の子を身籠らせたかった」
「よ、佳大さん‼」
何を急に言い出すかと思ったら・・・。
そんな恥ずかしいこと、何も、アツの前でわざわざ言わなくてもいいのに。
顔から火が出そうになり、下を向いた。
アツの顔、怖くてまともに見れない。
こんな所でアツと喧嘩別れなんて嫌。
それこそ、佳大さんの思惑通りになってしまう。
「だからそれが何⁉佳兄に浚われた時点で、覚悟はしていたよ。未央は、ずっと俺の事が好きでいてくれた。例え体は奪われても、心は渡さないーーそう信じていたから・・・佳兄、何がなんでも、王立大に進学してやるよ。入学したあかつきには、未央とキッパリ離婚してもらう。いいな⁉」
「そりゃあ、楽しみだな」
おそるおそる見上げたアツの顔は真剣そのもので。
佳大さんに負けじと、手をしっかりと握り締めて、僕と奏人を守るため、堂々と、佳大さんに宣戦布告をした。
ーそんな彼に、胸がキュンキュンしたのはいうまでもない。
やっぱり、アツの事が大好きだー
空港に到着すると、中はごった返していた。
定期便の到着が遅れているみたいで、これから出発する便にも影響が出ているみたい。
出国手続きの窓口には、長蛇の列が出来ていた。
「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん大丈夫ですか?
」
「ありがとう未央ちゃん。私たちは大丈夫よ。それより未央ちゃんの方こそ大丈夫?」
お祖父ちゃん達に声を掛けたら、逆に、聞き返された。
ヒーリーさんが、「コッチデス」ですと、案内してくれたのは、誰一人並んでいない違う窓口。職員さんや、警備員さんが沢山待ち構えていた。そこで、佳大さんから手渡されたのは、発行されたばかりという紺色のパスポート。アツが持っているのとは違う色。
佳大さんの言う通り、ガーランド王国に帰化し、国籍を取得したというのは、本当だった。
何より一番辛かったのは、佳大さんの妻という事実を改めて目の当たりにした事。
彼は、同性婚を法的に認めている国だからこそ、無理矢理、僕をここに連れてきたんだ。
”妻”として、一生縛りつけるために。
でも、僕は、彼の思い通りにはならない。
アツと、二人で、お腹に宿るまだ小さな奏人を守ってみせる。
出国審査は呆気ないほど、あっという間に終わった。
「ヒーリーは、王族だから、待遇が違うんだ。
ちなみに、ガーランドの子供は、みな、神様の子ーーだから奏人も勿論神様の子になる」
って佳大さんが教えてくれた。
アツとは、最後の最後まで目を合わせようとはしなかった。
日本国籍を失った僕は、皮肉にも、故郷に帰るのではなく、里帰りの為に向かうことになった。
アツや、お祖父ちゃんたち、雅枝さんは、複雑な心境を抱え塞ぎ込む僕を、元気づけようと
つとめて明るく振る舞ってくれた。
そして、その日本では、更なる深い闇が待ち受けていた。
僕にとって、家族とは何なんだろう。
いつから、歯車が狂ってしまったのだろう。
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