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家族とは
大きな窓から見える曇天の空は今にも泣きだしそうだ。
僕の心もこの空と同じ曇り空のまま。
あれほど帰りたかった日本なのに・・・。
「アツのお家か、お祖父ちゃんのお家に行くのかと思っていたんだよ。まさか、救急車が横付けされていて、そのまま病院に入院するとは思わなかった。僕、もう何ともないよ、ほらこんなに元気だし」
アツにいっぱい笑顔を見せて、腕を伸ばしたり、屈伸して見せた。
「仕方ないよ。うちの両親にとって初孫なんだし」
「それは分るけど・・・」
入院先はアツのお母さんが勤務する総合病院の産婦人科病棟。
担当医は、女医の佐々先生。アツのお母さんの同期で、奇しくもあの人と担当の先生が同じ。
『鬼頭さん、ここでは、前のご家族の話しは禁句です』
もう産まれましたよね?最初に先生に聞いた時だ。怪訝そうな顔で見られたのは。
アツや、彼のご両親、お祖父ちゃんたちに聞いても、いい具合に話しを逸らされてしまい、いまだ、先生の真意が掴めない。
毎日、検査で。少し痛いのと、恥ずかしいのはちょっと嫌だけど、エコー検査だけは好き。
だって、モニター越しに、日々、順調に成長している奏人と会えるから。
アツも学校が終わると真っ直ぐ会いに来てくれる。塾に行くまでのわずかな時間を一緒に過ごしている。
「そうだ!アツ、あのね・・・」
「母さんから聞いた。男の子に間違いないって・・・その・・・おちんちん・・・見えたんだろ?」
アツ恥ずかしそうだけど、すごく嬉しそう。
奏人とやりたい事がいっぱいあるみたい。
「良かった。名前、また考えるの大変だから」
「そこなの?」
「俺は別にどっちでもいい・・・」
アツの顔が近づいて、彼の吐息が鼻に触れたと思ったら、口付けされていた。
「未央はその・・・したいと思う方?」
「ん!?」
いまいち意味が分からなくて聞き返すと、
「だからさぁ」ため息を吐かれた。ごめん、鈍感で。そういうのは疎いの。
「妊娠するとエッチしたくなくなるって、ネットで見掛けたからさ。未央はどうかな・・・って」
「アッ・・・アツ!!」
恥ずかしい事をまさか直球で聞いてくと思わなかったから吃驚した。
アツとは、お祖父ちゃんの家で初めて結ばれたきりだから・・・。
彼だってしたいよね。
でも、この体は綺麗じゃないよ。
散々佳大さんに抱かれた体だもの。
それでも、アツは、僕を愛してくれるの?
胸が締め付けられる様に苦しい。
「そんな悲しい顔するな。変な事聞いてごめんな」
アツが謝る事じゃないのに・・・。
拒めなかった僕が悪いのに・・・。
全部悪いの、僕だよ。
アツじゃないよ。
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