75 / 120

二人の兄

警備員さんが駆け付けて来て、程なく到着したお巡りさんに、父の身柄を引き渡した。 「未央は、お父さんの事、大好きだよな?」 連行される際、後ろを振り返って、昔の優しかったあの笑顔で僕に助けを求めた。 「お父さん・・・?」 怪訝そうな面持ちで聞き返したお巡さんに、理人先輩が、 「違います。ここにいるのは、俺らの弟の未央です。その人とは、何ら関係ありません」 堂々たる態度でそう答えた。 父は喚き散らしながら、この恩知らず!!そう叫びながら連行されていった。 僕は、がたがたと体の震えが止まらなくて、声も発する事が出来なかった。 ・・・父さん・・・ごめんなさい。 きっと、僕のせいだ。 両方の性を持って産まれて来たから、父さんの人生を変えてしまったんだ・・・ 心の中でそう何度も謝った。 「ソトイマス」 ヒーリーさんが、気を遣ってくれて、三人にしてくれた。 「寺田には連絡したから・・・篤人、こっちに向かっているから安心しろ」 「それまで、俺らが側にいてやるから」 新しいパジャマに着替える間、二人は、後ろを向いてくれていた。 「俺らにとって未央は弟であり、妹でもある・・・」 「そう、目に入れても痛くないくらいにかわいい・・・佳兄もそうだよ」 「むさ苦しい男兄弟の清涼剤かな・・・」 「だな」 理人先輩と、頼人先輩とこうして話しをするのは初めてだった。 年上だし、自分から声を掛けるのさえ躊躇していた。 でも、実際話しをしてみると、いろんな新発見があって面白かった。 「未央は泣いている顔より、笑っている顔の方が断然いい」 って理人先輩が。 父に酷いことをされ、気持ちがヘコんでいるだろうと、すこしでも、忘れさせようと必死になってくれていた。

ともだちにシェアしよう!