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真実は悲しくて
「篤人が待っているから、手短に話すわね」
そう言って持っていたバックから携帯を取り出すと、その画面を見せてくれた。
そこには、数ヵ月前、この病院で起こった事件を報じる記事が掲載されていた。
「中澤奈津美さんは、予定日より二十日早く、男の子を出産したの。奈津美さんも、赤ちゃんも健康で、なんら異常はなかったんだけど、二日後よ。事件が起きたのは。たまたま奈津美さんうとうとしていたみたいで、はっと気がついた時、赤ちゃん用のベットの中でうつ伏せになっていて・・・。すぐに蘇生措置を行ったんだけど、呼吸が戻ることはなかった。病院側の過失だと、ご主人は騒いだけど、その時間帯に出入りしたスタッフは誰もいなくて、ご主人の行動にも疑わしい点があって、それを追求したら、錯乱状態の奈津美さんと共に姿を消したの」
ある程度覚悟はしていた。
佐々先生に禁句だと言われた時点で・・・。
だから、こんなにも冷静でいれるのかもしれない。
「・・・あの人の気持ち・・・ようやく分ったのに・・・もっと、ちゃんと話しがしたかったのに・・・」
「未央は優しいのね。あれだけ酷い仕打ちを受けても、それを許そうと思うのだから偉いわ」
「僕はそんなに偉くはないです」
母に携帯を返した。
あの人より、父がした事の方が許せなかった。
「お母さん・・・父は?罪になるんですか?」
「さぁどうだろう。証拠不十分ですぐに釈放されるとは思うけど」
「弟を殺したのが父でも!?」
「そうねぇ、確たる証拠がないなら、警察もどうしようもないのよ」
悔しいくらい、やるせない思いが込み上げてきた。
母はそんな僕の心情を察してか、扉の向こう側にいるアツを呼びに行ってくれた。
「未央、大丈夫か・・・って、父さん!!割り込んで来るな!!」
アツより先に駆け込んで来たのはアツのお父さん。白衣の上に、コートを羽織っていた。
「いやぁ、頼人から連絡を貰って、患者さんがいたんだけど、飛んできた。未央大丈夫か?」
「はい、何ともないです。すみません、ご迷惑を掛けて・・・」
「いいんだ、そんな事は」
おじさん・・・ううん、お父さんだ・・・オロオロして落ち着かない。母に、貴方はもう・・・って呆れていた。
「佐々先生は?」
「だから、大丈夫。ほら、篤人と未央の邪魔になるから帰りますよ」
「えぇ~!!今来たばかりだよ。未央と少しぐらい話しをさせてくれ」
有無言わさず母に腕を掴まれ引っ張られていった。
「・・・お父さん・・・ありがとう・・・」
自然とその言葉が出てきた。
「お父さん!?未央がオレの事、お父さんって・・・」
「はいはい、良かったですね」
母は立ち止まる事なく、父を連れて行った。
「アツ・・・あのね・・・」
大好きな彼とようやく会えて、安心したのか、ボロボロと涙が溢れてきた。
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