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別れの朝に、もうひとつの新しい命
「未央とやっと一緒に暮らせると思ったんだがな・・・」
「まずは未央と奏人の身を守る事が先でしょう」
「それは分っているけど・・・」
朝食の席で、僕の福島行きを、アツが最初に切り出した。
聞いた瞬間、お父さんは、ガックリと肩を落とし、今にも泣きそうな顔になった。
「福島に行くだけですよ。別に、ガーランドに戻る訳でもないんだから、そんな悲しい顔をしてないで、未央を笑顔で送ってあげましょう」
お母さんにそう言われ、少しは気が晴れたのか、笑顔を少しだけ見せてくれた。
「未央、奏人が産まれたら連絡をくれ。お父さん、すぐ飛んでいくからな」
「はい!!」
「あと・・・そうだ!奏人に必要なモノは、遠慮なく言うんだよ」
「はい!!」
「あと・・・なんだ・・・」
そわそわして、目をきょろきょろせているお父さんに、お母さん、朝から呆れ果てていた。
「たく、バカバカしくて聞いてられねぇ。理兄、学校へ行った方がましだ」
「あぁ、そうだな。頼人、悪いけど先に行ってて貰えないかな?」
「はぁ、何で?」
「未央に渡したいものがあるんだ」
「あれね」
「そうだ」
頼人兄さんが先にご馳走様をして席を立ち、理人兄さんが、僕とアツの前に座り直した。
「これを未央に・・・」
手渡されたのは神社の名前が書かれた小さな桐の箱。
開けると、安産祈願のお守りが入っていた。
「俺と、頼人から。たいしたモノじゃないけど、貰って欲しい」
「ありがとうございます、すごく嬉しい」
ぎゅっと握りしめると、アツが肩をそっと抱き寄せてくれた。
「アツ、未央、実はな・・・」
言いにくそうに兄さんが切り出したのは、そりゃもう、吃驚仰天する事で。
聞いていなかったお父さんも、お母さんも、腰を抜かすほど驚いた。
「俺にも子供が出来たんだ。あのあと、るのあから告白されて、付き合い始めたんだけど、まさかこんなにも早く子供が出来るとは思わなくて・・・今、7週くらいかな・・」
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