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あの人との再会
「この疫病神!あの人に今度は何をしたの?」
「僕は何もしていない」
「嘘!嘘!そんなの嘘よ!」
髪を振り乱し、怒り狂うあの人のその姿は憐れとしか言いようがなかった。
僕自身、なんでこんなにも冷静でいれるのか信じられなくて・・・。
一人だったら、あの人に気圧されていた。でも、今は、お腹の中の奏人と二人だから。
ママ、逃げずに頑張るね。
「僕の、父は・・・アツのお父さんだけです」
毅然とした態度で、あの人と対峙した。
「あら、もしかして、妊娠しているの?」
リュックサックにぶら下がっている『あかちゃんがいます』の薄ピンク色のストラップに、彼女はすぐ気が付いた。
「だから・・・私の赤ちゃんが邪魔だったのね。あの人、優しいから、あんたに騙されている事に気が付かなかったのね・・・一度ならずも二度も・・・あんたって子は、どんでもない化け物ね。あの人に色目使って、子供作って・・・それで、平然とした面で、鬼頭の嫁!?笑わせるんじゃない。さっさと、追い出しておけば良かった」
「僕は何もしてないし、知らない・・・何、一度ならずも二度って?何の事!?それに、この子は、アツとの赤ちゃんだもの・・・」
「嘘おっしゃい!!」
彼女は喚き散らし、持っていたバックから刃物を取り出した。
「未央様!!」
「ミオ、ダイジョウブ?」
寺田さんとヒーリーさんが駆け付けて来てくれた。
「なにすんの!離しなさい!」
ヒーリーさんが、長い手をを生かしすぐに刃物を取り上げた。
つかさず寺田さんが彼女を取り押さえた。息がぴったりの二人。まるで映画のワンシーンを見ているようだった。
「あんたらは知ってるの?その子の本性?とんだ、化け物よ。実の父親たらしこんで、邪魔な弟を手にかけた・・・鬼だよ・・・悪魔だよ」
正気を失った彼女に、何を言っても伝わらない。
僕も、奏人を授かって、少しはあなたの気持ちが分ったと思ったのに・・・。
悔しいよ。最後の最後まで分り合えないままなんて・・・。
「中澤さん、もう止めませんか?未央ちゃんを馬鹿にするの・・・」
すっと現れた雅江さんが、彼女の前に立ちはだかった。
「この世に、これだけ不幸でかわいそうな子が他にいますか?未央ちゃんは、何も悪くないですよ。実のお母様が亡くなった原因は、重度の妊娠中毒症だと聞いています。むしろ悪いのは、貴方のご主人の方ではないですか?篤人様のお子を身籠り、言葉が通じない異国でどれだけ辛い思いをしたか、貴方には、一生掛かっても分らないと思いますが・・・。未央ちゃんは、私にとって、孫同然の存在。今後、馬鹿にするような真似は、この私が許しませんので、肝に命じておいてください」
雅枝さんの言葉に、なおも抵抗を試みていた彼女は、ガタっとその場に崩れ落ちた。
「・・・奈津美さん・・・」
何の蟠りもなく、初めてその名前を口にした。
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