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あの人との再会
リュックサックの中をごそごそして、未幸のへその緒が入った桐の箱を彼女の手に握らせた。
「これ、未幸の・・・じゃない、奈津美さんの赤ちゃんのへその緒です」
「今なんて言った?」
彼女の表情が見る見るうちに変わり震撼していた。
「えっと・・・未幸って・・・」
「なんで、その名前を知ってるの?」
「なんでって聞かれても・・・名前がないのはかわいそうだと思って、それで、僕の”未”と、”幸福”の幸で、未幸って名付けたの。ごめんさない、勝手なことして・・・」
「ううん、いいの。私の方こそごめんさない、酷いこと言って・・・みっともない真似をして・・・」
彼女は、泣きながら小さな肩を震わせ何度も謝罪の言葉を口にしていた。
雅枝さんや僕になだめなれ、ようやく落ち着きを取り戻した彼女は、赤く腫れた瞼を擦りながら、驚くべき事を口にした。
「あなたと同じで、未幸と命名しようとしていたの。自分でもよく分からないのよ。ヘドが出るくらい嫌いな貴方の名前なのにね・・・」
未幸のへその緒を両手でしっかりと握り締め、よろつきながら立ち上がると、フラフラと歩き始めた。
「奈津美さん‼」
慌てて呼び止めた。
「未幸、良かったね、お兄ちゃんと遊んでもらって・・・さぁ、ママとおうちに帰りましょう。お腹空いたでしょう。オムツも交換してあげないとね」
彼女の目には、見えないはずの未幸のすがたが映っているのだろう。
大事そうに抱え、もう2度と振り返ることはなかった。
「未央ちゃんまで泣いて・・・」
雅枝さんに言われるまで自分の涙に気が付かなかった。
「だって奈津美さんの方が、もっとかわいそうだよ。未幸を失って・・・おかしくなるのも当たり前だもの。もし、僕も、同じように奏人を失ったら、彼女と同じ事をしていたかもしれない」
「未央ちゃんは大丈夫。篤人様や、旦那様や、奥様が付いていますもの。それに、私や、寺田さん、ヒーりーさんも」
雅枝さんに励まされ、寺田さんとヒーりーさんの方に目を向けると、笑顔で大きく頷いてくれた。
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