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穏やかで幸せな日々

「未央さんの出産に合わせ、一時帰国するそうだ。どうしても自分が赤ちゃんを取り上げたい。そう言ってね」 「そうなんですか?嬉しいです」 「あと、産まれるまで、まだ時間があるからそれまで警備体制の方も強化しておくよ。こんな田舎の産院だけど、悲しい事件だけは防がないとね」 「ありがとうございます」 「添島先生、宜しくお願いします」 お祖母ちゃんと一緒に、深々と頭を下げた。 未幸の事は、先生の耳にも届いていた。 あとで知ったことだけど、未幸が亡くなったあの事件は、連日ワイドショーを騒がせていたみたい。佐々先生も、かなり疑われて、病院を辞める寸前まで追い込まれたらしい。 知らなかった事では済まされない。 先生にあとでちゃんと謝らないと。 「ちっちゃい!!」 帰る時にちょうど退院の患者さんがいて、先生のご好意で赤ちゃんを抱っこさせてもらった。頭を手で押さえながらおっかなびっくり腕に抱くと、にこっと笑ってくれた。 ふにゃふにゃで柔らかくて、かわいい。 無事産まれてきてくれるかな・・・ ちゃんと育てられるかな・・・ 初めての出産で不安ばかりが募る僕を、お祖母ちゃんは優しく励ましてくれた。 美味しい野菜や果物をご近所さんが毎日の様に差し入れてくれて。 それにご飯も美味しくて、ついつい食べ過ぎて、妊婦健診の時、注意されることもあったけど、お腹の中で奏人はすくすく育っていった。 「あっ‼動いた」 愛おしそうにお腹を摩っていたアツの声が弾む。 4月に入り、お祖父ちゃんちに引っ越してきてくれて、ようやく一緒に暮らす事が叶った。 「あちこち蹴って痛いの」 「今から、やんちゃ振りを発揮してどうすんだ奏人。ママをあんまり困らせるなよ」 お腹もたいぶ大きくなってきた。7ヶ月過ぎても殆ど目立たなくて、奏人がちゃんと育っているか不安だったけど、8ヶ月に入ってようやく妊婦さんらしくなってきた。 今日は妊婦検診の日で、アツが付き添ってくれた。彼、添島先生に会うのが初めてで、かなり、緊張している。前に、乾先生に首根っこを掴まれ、みっちり説教をされたのがいまだトラウマになっているみたいで、怒られるのを覚悟で、僕に付いてきた。 名前を呼ばれ、一緒に診察室に入ると、いつも穏やかな先生の表情が、一瞬で、変わった。 あぁ、ヤッパリ・・・。 雲行きが怪しくなってきた。

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