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穏やかで幸せな日々
「えっと・・・う・・・ん」
添島先生、しばらくの間腕を組んで何やら考え込んでいた。
「要は、君が、本当の父親なんだ」
「はい、そうです。鬼頭篤人といいます」
「随分と若いようだけどいくつ?」
「17才になったところです」
「・・・・」
アツの年齢を聞いて、更に頭を抱えていた。
「働いているの?」
「いえ・・・」
「じゃあ高校生か。今時の子だね、君達。後先考えないで子供作って・・・どうやって育てていくつもりでいるんだ」
「後先の事はしっかり考えています。今までの小遣い全部貯金してますし、アルバイトが認められている高校なので、週末だけ働くつもりです。両親や、祖父母にあまり頼らず、未央と、奏人と三人で生活が出来るよう努力します」
「なかなかいい目をしているな・・・分ったよ、君を信じるよ」
「ありがとうございます」
背筋をピンと伸ばし、堂々と自分の意見を述べる様は、とても凛々しかった。
「じゃあ、診察を始めようか・・・君はどうする?」
「未央と一緒に奏人を見せてください」
「いいですよ」
エコー検査に立ち合うのも、モニター越しに奏人と会うのも、すべてが人生初のアツ。
「起きていればいいけど・・・どうかな・・・」
先生の心配をよそに、わくわくそわそわしながら、画面を食い入るように見詰めるアツ。
奏人ね、昼夜逆転してて、この時間、だいたい寝ている事が多いんだよ。
恥ずかしがりやさんなのか、起きてても、手で顔を隠して、なかなか顔を見せてくれないんだよ。
今日はお利口さんにして、パパに顔を見せてあげてね。
「頭・・・下・・・ですよね?」
「ぐるぐる回転しているから。まぁ、この時期の逆子はさほど心配ないよ」
残念な事に背中と、臀部しかモニターに写っていなかった。
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