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”故郷”へ

「勝手に決めないで下さい。僕は、ここにいたい・・・お祖父ちゃんや、お祖母ちゃん、ご近所さん・・・みんな、すごく優しくしてくれる。僕は、ここで、奏人を産んで、アツと育てたい」 「今、自分が置かれている状況を分って言っているのか?」 佳大さんの言葉に返すセリフが見つからなかった。 「下手したら、実の父親に殺されるかもしれないんだぞ。今朝、玄関に子猫の死骸が置いてあったと寺田から聞いた。今日だけじゃない。鳥の死骸が散乱していることもあったらしいからな」 朝の事を思い出し、アツと、寺田さん達を見回した。 みんな、僕を気に掛けてくれている。心配してくれている。 これ以上、僕なんかの為に迷惑を掛けるわけにいかない。奏人を守れるの僕だけなんだもの。 選択肢は一つしかない。 「佳大さんと・・・ガーランドに・・・帰る・・・ごめんね、アツ・・・」 お腹を擦りながら、アツに思いを伝えた。 ここで本当は産んで育てたかった。 でも、このままだと、沢山の人に迷惑を掛けてしまう。関係ない人まで、巻き込んでしまうかもしれない。 自分では、もうどうすることも出来ない。 アツと奏人を守るためならーー僕は、どうなっても構わない。 アツ、お願いだから、分かって・・・。 「そう答えると思って、ここから車で20分の所にある、農道離着陸場で飛行機を待機させてある。万一の場合を考えて、乾先生をはじめとする医療スタッフを連れて来た。明日の朝に出発する」 「乾先生が・・・本当?」 「あぁ。いとこが、産婦人科医で、未央の主治医だと言っていた」 佳大さんは、アツに、僕の荷物を一つにまとめるよう指示した。 「やっと一緒に暮らし始めたのに・・・未央と離れたくない」 「なら、お前も来ればいいだろう」 佳大さんがニヤリと笑った。 「生活の面倒くらいみてやるぞ。弟と、愛しい妻と・・・じき、産まれる奏人と・・・賑やかになりそうだ」 「未央は俺のだから」 「今は、俺の妻だ」 一発即発の二人を止めたのはお祖父ちゃんとお祖母ちゃんだった。 「喧嘩するのはいいけど、まずは、未央ちゃんを休ませてあげないと」 二人共、ぷいっと顔を逸らしたまま、あぁ、分かった、そうぶっきらぼうに答えていた。 「佳兄、未央にくっつき過ぎ」 「はぁ、そういうアツだって」 お祖母ちゃんが川の字に二人の布団も準備してくれたけど、アツも佳大さんも、僕の布団に潜り込んできた。ただでさえ狭くて窮屈なのに。しかも、暑くるしい。 右を向けば、佳大さんがにっこりと微笑んでくれて、 左を向けば、アツがにこにこの笑顔で見詰めてくれる。 佳大さんが、僕の手首をぺろっと舐めれば、アツも負けじと、手首をべろっと舐めた。 「しかし、嬉しいな。指輪をつけたままにしていてくれて」 「そういう訳じゃないから。勘違いするな」 「じゃあ、どういう意味だ」 佳大さんがおもむろに上体を起こしてきて、顔が近付いて来たと思ったら、唇に口付けされていた。 アツの悲鳴が上がる中、きょとんとして彼を見上げると、 「諦めようと思ったんだけど・・・一生無理だな、未央を諦めるの・・・前よりももっと、好きになっているかもな。俺とやり直さないか?」 改めてプロポーズされ、アツに対する宣戦布告ともとれる発言をされ、ますます頭の中が混乱したのはいうまでもない。

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