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”故郷”へ
「アツ、ごめんね・・・」
「だから、いちいち謝らなくてもいいから」
「うん、そうだね・・・」
アツとの別れが刻一刻と近付いていくにつれ、どうしようもないくらいの寂しさが込み上げてきて、無意識のうちに、彼の背中に爪を立てていた。
「ごめんアツ。掴むものなくて・・・痛かったよね?」
「大丈夫。もっと、痕つけていいよ。治るまで、未央の所に行くから・・・」
「何、それ」
思わず噴き出した僕に、彼は口を尖らせた。
「笑うなよ。言っておくが、おれ、そっちの趣味はないからな」
「はい、はい」
アツといると時間を忘れてしまうくらい楽しい。
お陰で、寂しさも吹き飛んでしまった。
「未央・・・」
何気に名前を呼ばれ、彼を見上げると口付けが静かに降りてきた。
「・・・愛している・・・愛している・・・」
何度も繰り返すうち、彼の声は、涙声に変わっていった。
「僕も・・・アツの事・・・大好きだよ・・・」
彼からの貰い涙で、ぐじゃぐじゃになりながら、僕も声を上げ泣いた。
ほんとは、片時も離れたくない。
彼の肌の温もり、心音、匂いーー。
笑顔や、声、泣いた顔ーー。
全部が愛おしいから、離れたくない・・・。
「アツ、そろそろ、乾先生が来るから、着替えだけ済ませておけ」
ドア越しに、佳大さんの声が聞こえてきた。
彼なりに、気を遣ってくれているみたいだった。
「あぁ、分かったよ」
涙を手でゴシゴシと拭いて、むくっと体を起こすと、服を着始めた。
「あんまり、ジロジロ見ないでくれるかな。その・・・恥ずかしいから」
まさか、彼の口からそんな台詞が出てくるとは・・・。
おかしくて、泣いていいやら、笑っていいやら、もう、訳が分からない。
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