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番外編 《洗礼式と新居編》
ガーランド国王、アショクラ5世陛下が住まわれている王宮は、首都の中心部にある。周囲を高い塀でぐるりと囲まれ、政治の中心となる王政議会などの建物が、広大な敷地に点在していた。
国軍が厳重に警備している正門で、セキュリティーチェックを受けてから車で中へ。
あちこちに検問がいくつもあって、なかなか、先に進めないし、王宮らしき建物も見えてこない。
幸いにも奏人は、アツと、佳大さんの人差し指をそれぞれ握って、満足そうに、すやすやと僕の腕の中で眠っている。
約束の時間に間に合うかな?
時計の針を気にしていると、目の前に、馬に股がった軍人さんが颯爽と現れた。
黒衣の軍服を着た軍人は初めて見た。
胸には、勲章が幾つも付いていた。
運転手さん、その軍人さんの顔を見るなり、ビックリ仰天。慌てて車を停車させ、何度も頭を下げていた。
かなり、身分の高い人だということは容易に予想できた。
男性の顔をちらっと見て、ヒーリーさんの顔が浮かんできた。
「どうやら彼、ヒーリーさんのお父さんみたいだ」
「え⁉ちょっと待って、ヒーリーさん、今、23才だよ」
目の前にいる男性はどうみても40才前後。
佳大さん、窓を開けて、流暢な英語で、ごく普通に会話していた。
こうして、改めて見るとやっぱりかっこい‼
惚れ惚れする~。
うっとりしてたら、アツに、服をツンツンと引っ張られた。
「ごめん。アツも、同じくらいかっこいよ」
「ありがとう」
佳大さんの表情がやがて驚きに変わった。
「彼、王弟殿下だよ」
「王弟殿下⁉」
「アショクラ国王の弟、ジェイ殿下だよーーガーランド国軍に3人いる将軍の一人。ヒーリーさんは、彼の長男で、18才の時に産まれた2番目の子供みたいだ」
「2番目⁉」
18で2番目って?
ということは、アツくらいの年齢で、最初のお子さんが産まれたってこと?
一夫多妻制だもの。
ディネシュさんだって、まだ30才なのに、奥さんも、お子さんも数えきれないくらいいるし。
最近になってようやく驚かなくなったけど、一庶民に過ぎない僕には、理解するのは無理かも。
「でね、未央。彼がいうには、彼の住む家の離れが空き家になっていて、そこに住んで欲しいそうだ。息子が世話になっているお礼がしたいって」
アツと思わず顔を見合わせた。
「気を遣わなくてもいい。ごく普通の家だから、だって・・・どうする?」
佳大さんが、通訳してくれた。
「一人で育てるよりも、いいかもな」
「うん、ヒーリーさんのご家族が一緒なら、僕も心強いし」
「まぁ、帰ってからゆっくり話し合おう」
そんなことを3人で話しているうち、王宮前の車寄せに車が停車した。
ヒーリーさんのお父さんが、車を先導してくれたお陰で、検問はすべてスルーで、あっという間に到着したのだ。
なんか、凄い人と出会ったような・・・。
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