112 / 120

番外編 《洗礼式と新居編》

ガーランド国王、アショクラ5世陛下が住まわれている王宮は、首都の中心部にある。周囲を高い塀でぐるりと囲まれ、政治の中心となる王政議会などの建物が、広大な敷地に点在していた。 国軍が厳重に警備している正門で、セキュリティーチェックを受けてから車で中へ。 あちこちに検問がいくつもあって、なかなか、先に進めないし、王宮らしき建物も見えてこない。 幸いにも奏人は、アツと、佳大さんの人差し指をそれぞれ握って、満足そうに、すやすやと僕の腕の中で眠っている。 約束の時間に間に合うかな? 時計の針を気にしていると、目の前に、馬に股がった軍人さんが颯爽と現れた。 黒衣の軍服を着た軍人は初めて見た。 胸には、勲章が幾つも付いていた。 運転手さん、その軍人さんの顔を見るなり、ビックリ仰天。慌てて車を停車させ、何度も頭を下げていた。 かなり、身分の高い人だということは容易に予想できた。 男性の顔をちらっと見て、ヒーリーさんの顔が浮かんできた。 「どうやら彼、ヒーリーさんのお父さんみたいだ」 「え⁉ちょっと待って、ヒーリーさん、今、23才だよ」 目の前にいる男性はどうみても40才前後。 佳大さん、窓を開けて、流暢な英語で、ごく普通に会話していた。 こうして、改めて見るとやっぱりかっこい‼ 惚れ惚れする~。 うっとりしてたら、アツに、服をツンツンと引っ張られた。 「ごめん。アツも、同じくらいかっこいよ」 「ありがとう」 佳大さんの表情がやがて驚きに変わった。 「彼、王弟殿下だよ」 「王弟殿下⁉」 「アショクラ国王の弟、ジェイ殿下だよーーガーランド国軍に3人いる将軍の一人。ヒーリーさんは、彼の長男で、18才の時に産まれた2番目の子供みたいだ」 「2番目⁉」 18で2番目って? ということは、アツくらいの年齢で、最初のお子さんが産まれたってこと? 一夫多妻制だもの。 ディネシュさんだって、まだ30才なのに、奥さんも、お子さんも数えきれないくらいいるし。 最近になってようやく驚かなくなったけど、一庶民に過ぎない僕には、理解するのは無理かも。 「でね、未央。彼がいうには、彼の住む家の離れが空き家になっていて、そこに住んで欲しいそうだ。息子が世話になっているお礼がしたいって」 アツと思わず顔を見合わせた。 「気を遣わなくてもいい。ごく普通の家だから、だって・・・どうする?」 佳大さんが、通訳してくれた。 「一人で育てるよりも、いいかもな」 「うん、ヒーリーさんのご家族が一緒なら、僕も心強いし」 「まぁ、帰ってからゆっくり話し合おう」 そんなことを3人で話しているうち、王宮前の車寄せに車が停車した。 ヒーリーさんのお父さんが、車を先導してくれたお陰で、検問はすべてスルーで、あっという間に到着したのだ。 なんか、凄い人と出会ったような・・・。

ともだちにシェアしよう!