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第15話 二度目のあやまち
いつの間にか、榛名が下半身に身に付けていたものは全て剥ぎ取られていた。
「あっ……あっ……」
「気持ちいい?俺の足に擦り付けるの」
「やっ!」
榛名は涙目で霧咲を睨んだ。しかしそんな顔をしても、ますます霧咲を煽るばかりなのだと榛名は気付かない。
霧咲が榛名の足を割るようにして彼の上に乗ってきたため、ちょうど自身が彼の太ももに当たっていた。そして榛名は無意識で自分自身を擦り付けていたのだ。自慰をするみたいに。
「そんなに我慢できない?」
「ひぁっ!?」
撫でるようにシャツの中に手を入れられて、二つの飾りをギュッとつねられて思わず大きな声が出た。
そして霧咲は膝を使って――先程榛名が自慰をしていたように――グリグリと榛名のソコを強めに攻め立てた。
「あっあっ、だめぇ、出ちゃう……!」
「もう……?いい大人なのに射精も我慢できないのか?アキ」
「だって!貴方が擦るからっ……!あっ!」
「しょうがないな……じゃあ一度イキなさい」
目を開けたら霧咲の余裕な顔しか見えない。悔しいけれど、抗うことは出来なかった。
そして、右の突起を弄くっていた手がいきなり下半身に降りてきて急激にしごかれた。鈴口をくちゅくちゅと弄りながら竿を擦られて、榛名は堪らず叫んだ。
「だめ!だめぇ!あ、イクぅーッ!!」
そのあとすぐ、腰をくねらせながら霧咲の手の中に白濁液を吐き出した。
「ふふっ、相変わらずイク時の顔も可愛いね……アキ」
「はぁ……っ、はぁ……っ」
達して脱力した体のあちこちにチュ、チュ、とキスをされた。
(なんで……酒もそんなに入ってないのに)
身体が熱くてたまらない。
恥ずかしいのに、見て欲しい。
自分が感じているところを。
触れてほしい。
自分も触れることのできない、奥の奥まで。
他の誰でもない、霧咲に……。
「あっ……」
榛名には先程から気にしていることがあった。顔を近付けてきた霧咲がもう一度濃厚なキスをしてきそうだと予想し、両手でばっと口を抑えた。
「アキ……なんの真似かな?」
「に、においが……」
「え?」
予想外のことを言われ、霧咲はキョトンとして榛名に聞き返した。
「俺、さっきビールと餃子いっぱい食べたからその……口臭いんで……」
「なんだ、そんなこと」
霧咲は口を抑えていた榛名の手をほどくと、榛名の予想通り濃厚なキスをしてきた。
「はむ……っんっ……チュ、チュ、……チュプッ」
今度は榛名も自然に口を開けて、霧咲の舌を迎え入れていた。においが気になると言ったわりには全く抵抗しない榛名を見て霧咲は少し苦笑したが、ならば遠慮なく、と思いきりその舌を吸って味わった。
「ヂュゥッ、チュパッ……ふ、そんなの俺だって食べたんだから気にならないよ。コーヒーも飲んだし。それよりアキ、君は明日遅番らしいね」
「はぁっ……え?」
確かに榛名の明日の勤務は夜勤だ。しかし誰に榛名のスケジュールを聞いたのだろう。
「師長さんに聞いたよ。家を出るのは昼過ぎでいいんだろう?だからまたこの間みたいに、頭がバカになるくらい気持ちいいセックスをしよう」
「はあっ!?ちょ、あんっ」
霧咲の頭が下がり鎖骨をツウッと舐めると、左の突起をパクンとくわえられた。そのまま、舌で弾かれるようにレロレロと舐められる。それはあの夜に覚えた、それまで榛名自身も知らなかった自分の性感帯だった。
「ひあっ!あっ、あっ!」
「アキ、ここ舐められるの好きだよね、今まで彼女にもされてこんな風に喜んでたの?」
「そ、そんなわけない」
「チュパ、チュプッ、じゃあ俺が初めてなんだ。嬉しいな」
「………っっ」
霧咲に初めてされたのは、何もそこだけじゃない。トロトロに溶かされるような濃厚なキス。同じ男だから分かるのか、感じるところを確実に攻めてくる手。後ろの愛撫と挿入。何もかも、されたのは霧咲が初めてだ。
「アキ、上の服も脱がすよ……」
「んっ」
――どうして自分は逆らわないんだろう。
榛名は霧咲が促すままに行動している。ただ快楽に弱いだけなのか、それとも……
その答えを、榛名は知りたくなかった。
榛名の上で霧咲も服を脱ぎ、お互いに全裸になる。とても40前とは思えない、ほどよく筋肉のついた霧咲の逞しい身体に榛名は目を奪われた。霧咲はそんな榛名に微笑みながら、ゆっくりと身体を倒してきて榛名を強く抱きしめた。
ドキン、ドキン、ドキン、ドキン……
心臓の鼓動がうるさい。
バレたらまた、からかわれるのだろうか。
からかわれるのは嫌だな……。
(……意地悪しないで欲しい……)
そう心の中で思い、榛名も霧咲の背中にそっと手を回して、小さく抱きしめ返した。そんな榛名の想いが通じたのか、霧咲は優しい声で榛名に言った。
「アキ……また君に会いたかった」
「………」
「今日俺に再会して、運命だって思った?」
霧咲に顔を覗き込まれて、そんなことを聞かれた。けど榛名はプイッとそっぽを向いて。
「……運命なんてものは、ありません」
と、少し冷めた声で答えた。今日、霧咲が榛名の前に再び現れたのは単なる偶然だ。運命なんかじゃない、最悪の偶然。
(まさかよりによって、職場なんかで再会するなんて……)
それなのに、どうして自分の手はこんなに霧咲を求めているのだろう。榛名はなんだかたまらない気持ちになって、霧咲を見た。なんだかまた、キスをしてほしくなった。
霧咲は優しい眼差しで、くるくると変わる榛名の表情を見つめていた。そして、榛名が望む通りキスをしてくれた。
「ンッ、んぅ……チュッ……チュ……」
「チュプ……ねえアキ、俺を思い出して一人でシテた?」
「は……?」
「ここ、一人で慰めてた?」
「ッや、」
霧咲の指が、榛名の後孔へと触れた。先ほど榛名の出した精液で濡れているとはいえ、指が入るほどのぬめりはない。
男同士の性交で使う潤滑剤なんて榛名の部屋には置いていないし、まさか、ローションなしでするつもりなのだろうか。榛名は不安な顔で霧咲を見た。榛名の視線に気がついたのか、霧咲は反対の手でそっと榛名の頬を撫でた。
「そんなに不安そうな顔しないで。君が痛がるようなことはしないから」
「でも……俺ローションとか持ってないし」
「俺が持ってる。ローションじゃなくてゼリーだけどね。君もよく知ってるやつだ」
「もしかして、キシロカイン……?」
「ご名答」
キシロカインゼリーは医療現場ではよく用いられる、表面麻酔薬だ。主に尿道にカテーテルを挿入する時や、鼻から経管栄養のマーゲンチューブを入れる時などに使用する。
そんな身近でよく使うものを(透析室でも穿刺する前に麻酔薬として塗ることもある)セックスのために使うことになるなんて、榛名は思ってもみなかった。
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