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第23話 落ち着かない休日

二晩寝ると、あっというまに土曜日が来た。榛名はせっかくの休みだというのに早起きし、朝からなんだか落ち着かない。溜まっていた洗濯や掃除、部屋の片付けを終わらせてもまだ時計の針は午前中のままだった。 「はぁ……」 (なんで朝からこんなに張り切ってんの、俺) こんなの、今日の夜霧咲と会うのを楽しみにしているみたいじゃないか、と榛名はため息をついた。 ……楽しみにしているわけじゃない。どうせ断ったところで霧咲は強引だし、結局抵抗しても無駄だろうと最初から諦めているのだ。 それに、ただ話すだけだったら楽しい。霧咲は聞き上手だし、医者だし――そこにはほんの少し憧れの感情があることは否定しないが、あくまで医者として、だ。霧咲個人に対して憧れなんかない。ない……と思いたい。 だから、もし今夜も誘われるようだったら、そこはちゃんと断らないといけない。まだ二回しか寝ていないとはいえ、今の二人の関係は所謂セックス・フレンドのようなものだ。榛名はそんな爛れた交友関係などいらない。 (でも、別に友達ではないな……) 友達ではなく、知人とセックスするだけの関係は一体なんと呼ぶのだろうか……と榛名はしばし真面目に考えたが、アホらしくなってやめた。 心底どうでもいいことだ。 (とにかく、このままだと絶対ハマる……) 男とのセックスにハマる、もしくは男と恋人同士になる――どちらにせよ、泥沼の未来しか想像できない。面白味もないがまともな人生を歩んできたのに、今更そんな泥沼にハマるわけにはいかないのだ。 「昼寝しよっかな……」 ひとりごちて、榛名はポスンとベッドに横になった。そしてまた霧咲のことを考えた。 (大体、俺のことをゲイだって言ってたけど、俺は女の子だって普通に抱けるし……) 初めて霧咲に抱かれたあと、霧咲にされたことを思い出して自慰をしたのは失敗だったかもしれない。そのせいで、二回目に抱かれたときまたああいうことされるんだって妙に興奮してしまって…… (あ……なんか、またヤバイかも……) なんだか少しズクンと身体が疼いたが、必死に誤魔化そうとした。そういえば以前は、どうやって自慰をしていただろう。 (何をオカズにしていたっけ?あんまり思い出せない。そもそも彼女がいれば自慰なんてしてなかった気がする) そしてそういう行為に誘ってくるのも、いつも彼女からだった気がする。 (俺がフラレてたのって、それが原因?) 思い返せば思春期の頃から、周りの男子が話していた『大きいおっぱいと小さいおっぱいどっちが好み?』みたいな下ネタもすごく苦手で、いつも適当に誤魔化していた気がする。『女は性格だ』とか言って……。 (いや、違う……違うって) 榛名はガバッと身を起こすと、あまり使わないノートパソコンが置いてるデスクに座ってその電源を付けた。 (俺はゲイなんかじゃないって……) 女の子の動画でも検索して視ようと思ったのだ。それもとびきりエロいやつを。榛名はAVやエロ本の類いなどは一冊も持っていなかった。それは実家にいるときもそうだった。母親や姉に見つかったりしたら面倒だからだ。 「……………」 (本当に、理由はそれだけ……?) 画面の中の量産型の顔をした女は、目を閉じて声をあげて男の愛撫に感じている。多分、演技だろうけども。下品に脚を開いて、男にすがりついて…… 「……チッ」 気づけば榛名は、女に対して舌打ちをしていた。そしてそんな自分に吃驚した。 (AV見て興奮するでもなく舌打ちするって俺……何様!?てか、なんで!?) 嫌悪感がしたのだ。画面の中の女の姿は、先日自分が霧咲に曝した姿とまるで同じだ。あさましくて、淫乱で、強欲で…… 榛名はその動画を消すとパソコンをシャットダウンした。気分が悪い。下半身は勃起するどころではなくすっかり萎えてしまっていた。 (やっぱり、俺は……) ゲイなのだろうか、と榛名は落ち込む。再びベッドに横になると、いけないと思いながらも霧咲の声を思い出してしまった。 『……アキ……』 信じられないくらい気持ちがいいキスと、榛名を何度も悦ばせる、いやらしい手の動きも。 「あっ……」 自分でシャツの裾から手を突っ込み、小さな突起に触れた。霧咲がしてくれたみたいにこりこりといじるとすぐにプクッと立ち上がり、甘い声が漏れだす。 『アキ、君はここいじられるの好きだよね』 「んっ……ふぅ、ン……あん……』 霧咲の舌先でツンツンと刺激されるように舐められるのを想像しながら触ると、女じゃないのに存在感を示してくる自分の乳首。強く摘むとひどく気持ちよかった。 (想像したら、ダメなのに……) 榛名の指の動きは止まらない。 いままでこんなところで自慰をしたことなんてないのに、霧咲に初めて触られて感じてしまって以来、必ず触るようになってしまった。というか、あれ以来妄想するのは全部霧咲との情事だ。 いつの間にか下半身にも手を伸ばしていた。乳首をいじっただけなのに、自身はもうズボンの中で硬く勃ちあがり、先走りが溢れて下着を濡らしていた。榛名はズボンと下着を一気に下ろし、そのぬめりを巻き込むようにして性器を握り、上下に扱き始めた。 「はぁっ……あんっ、あ……っ」 ゲイじゃないなんて…… 女の子も抱けるだなんて…… 全部ただの強がりだ。その証拠に、自分はAVを見ても嫌悪感しか抱かなかった。女優が自分みたいだったから嫌悪しただけじゃない。 榛名は『女』そのものに嫌悪感を感じていたのだ。 (俺、女の人が嫌いなんだ……) 「はぁ、ンッ……あっ……」 腹に付きそうなくらい勃ちあがったソレを右手でグチュグチュとしごきながら、榛名は初めてそれを認めた。 (俺はもう、戻れないのかな……) 今はっきりと、自分が女を嫌っていると意識してしまった。霧咲の言った通り、今まで彼女を真剣に愛したことなんて榛名にはない。それは自分でも分かっていたけど。 (でも、認めたくなかった……) 仲のいい友達だって女性だし、仕事の同僚だってほとんどが女性だ。彼女らを嫌悪したことなんて一度もない。でもそれは恋人としての対象――『女』として見ていないからだ。 (恐い……) だから今まで、女性が嫌いだなんて思わなかったのに。でももう、女性は自分の恋愛対象ではないとはっきりわかってしまった。霧咲に出逢ったことで。 「……あっ、きりさき、さん……!」 自分自身をしごく右手のスピードが速くなり、耳につく卑猥な水音にも興奮が高まっていく。榛名は自身を擦りながら、絶え間なく霧咲にされたことを思い出し続けていた。 自分でも見たことのないようなところをあの強い目で隅々まで見られて、熱い舌でナカまで掻き回されたこと。 首筋や鎖骨に軽く噛みつかれて、そのあと舌先で優しく舐められたこと。 耳の中に舌をねじ込まれて、声を吹き込まれながらそこを犯されたこと。 そして……あの熱い昂りを自分のナカにねじ込まれて、何度も最奥まで突かれたこと。 「はっ、あっ!あ、あん……っ!」 自分は簡単に霧咲自身を受け入れて、自ら脚を広げながら霧咲に『もっと』と懇願した。さっき見たAV女優なんかより、自分の方が数倍は淫乱に思えた。 『……アキ、君は俺の運命の人なんだよ』 「あぁっ……!」 『好きだよ……』 霧咲の言葉を反芻し、ついに榛名は達してしまった。はぁはぁと息を整えて、白濁を受け止めた右手を見つめ、ゴロンと仰向けになる。 こんな真っ昼間からこんなことをしてるなんて、自分が信じられない。それでも、自慰をしてしまったことには変わらない。 それより、もっと信じられないのは…… (もっと俺をぐちゃぐちゃに犯して、霧咲さん……) 達する瞬間、そんなことを思ってしまった自分の思考だった。

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