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第34話 榛名、霧咲に泣かされる
霧咲はワインボトルを片手で持ち、トクトクとグラスに注ぐと優雅な仕草で回し、飲んだ。榛名は泣きそうな顔でその様子をジッと見つめ、そして熱くなった身体を持て余していた。
(早く、早く抱いて欲しいのに……っ)
霧咲はそんな榛名の気持ちを見透かしてはいるが、無慈悲に生ハムをつまみながら言った。
「榛名、早くオナニーして見せて。職場の人に淫乱だってバラされたいの?」
「っ……!」
少し苛立った霧咲の声に、榛名の肩がぴくっと揺れる。自分たちの関係をバラすだなんて、そんなことはありえないと分かっているものの、真面目な榛名にはそれを連想させる言葉だけでもキツかった。観念して両膝を立てて、両手を自身にそっと手を添えた。
「見えないから、もっと足を広げてごらん」
「……っ」
榛名は、霧咲の言われた通りにゆっくりと両足を開いた。今の格好はいわゆるM字開脚というもので……なんて恥ずかしい格好なのだろう、と榛名は泣きそうになる。けど、霧咲に見られていることで恥ずかしさはだんだん快感へと変わってくる。
「昼間はどんな風にしてたの?再現して見せてよ」
「………」
(昼は、どういう風にしてたっけ……)
榛名は昼間のことを思い出しながら、ようやく観念して自分のモノを上下に擦り始めた。自分はゲイなんかじゃないって思って、AV女優でも見て抜こうと思ったけどむしろ腹が立って舌打ちして……そして霧咲のことを――霧咲にされたことを思い出しながらシたのだ。改めて本当に、自分はなんて浅ましいんだろうと思う。
「ん……はっ……」
それでも、快楽を求めてしまう。だってこんなの、今まで知らなかった。
「きりさきさ……あっ……」
自分がこんなに気持ちよくなれるなんて……こんなにいやらしくなれるなんて……
「あっ……触ってぇ……きりさきさ……っ、」
こんなに、誰かを好きになれるなんて。
「アンッ……きもち、いぃ……っ」
――運命の人となんか出逢えるわけないって、そんなのあり得ないことだって思ってたんだ。
「何、そうやって俺のことを呼びながら一人でシテたんだ?可愛いね、凄く気分がいいよ。今日が仕事じゃなかったらすぐに君の部屋に行ってあげたのにね……」
霧咲は相変わらず優雅な仕草でワインを飲んでいる。榛名の痴態を楽しそうに見つめながら。
「はあっ、はぁっ、はあぅ……」
「イキたかったらイッてもいいよ」
「………っ?」
どうしてだろう。『イッてもいい』と言われたのが、なんだか突き放されたみたいに聞こえて悲しい気持ちになる。これならさっきみたいに『勝手にイッたら許さないよ』と言われる方が良かった、なんて……とうとう自分は頭がおかしくなったんだ、と思った。
それでも霧咲がお仕置きだと言うのだから、榛名は一生懸命に手を動かす。だけどさっきまで膨張していたソレは、なんだかだんだんと柔らかく力を失ってきた。
(な……なん……で?)
まさか、と思って榛名は先程よりもきつくしごいた。けれど、それはますますふにゃん、と芯を失ってくる。
「……アキ?」
榛名のその変化に気付いたのか、霧咲が怪訝な顔をして榛名を呼んだ。榛名はビクッとして、慌ててそれを勃たそうとする。けど、霧咲に見られているのが逆効果となり、今やもうソレはなんの反応も見せていなかった。
「なんで、なんでっ」
(オナニーしろって言われたのに……勃起すらしないとか、また怒られる……てか、嫌われる?)
――それかもう、浅ましすぎる自分を見せて嫌われた………?
「……アキ」
「やっ、ごめんなさい、ちゃんとするから、言われたことできるから!ちょっとだけ待ってください……!」
榛名はなんとか自分を落ち着かせようと試みるが、一度思い浮かんだその考えは簡単に消すことはできない。霧咲がすごく冷たい目で自分を見ているんじゃないだろうか、と思った。そして、また両の目からは涙が溢れてきた。
「なっ、なんで涙なんか……!」
腕で目をごしごしと擦ったら、霧咲に腕をガシッと掴まれた。そして、頭上からはため息が降ってきた。霧咲はいつの間にかチェアから立ち上がり、ベッドの横に立っていたのだ。
「ハァ、これじゃお仕置きにならないな」
「………っ」
(霧咲さん、ガッカリしてる……。そりゃ、そうだよな。我慢弱くて浅ましくて、言われたことも満足に出来なくて、しまいには泣き出すとか……俺がもっと若くて可愛かったら許されたのかもしれないけど……)
「君が可愛いすぎてお仕置きする気が削がれてしまったんだけど、どうしてくれるの?」
「へ?」
霧咲はベッドに腰掛けると、榛名の涙の跡を親指で拭った。榛名はそんな霧咲をキョトン、とした顔で見つめた。すると霧咲が優しい声で言った。
「俺が君にする意地悪は、基本的には全部プレイなんだよ?本気じゃない。なのに君は、本当に俺が怒ってると思っているみたいだね」
「怒ってるっていうか……き、嫌われたかな、って……」
「俺が君を嫌うはずないだろう?」
少し腫れてしまった、榛名のまぶたにキスをしながら霧咲は言う。
「……っんなの、わかんない!」
「じゃあ、分からせてあげる。俺がどれだけ君のことを愛しているのかってことをね」
「え……?」
背中に手を回されたと思ったら、榛名はそのままポスンと優しくベッドに寝かされた。
「君はMだって思ってたんだけど、優しくされる方が好きみたいだから今日は優しくしてあげよう。でも、そのうち俺の意地悪にも慣れていこうね。俺は昔から好きな子をいじめるのが好きなんだ」
「しょっ、小学生ですか!?」
「うん、まぁ変わってないよね。男はいつまでもガキなんだよ。ところでアキ、君って女の子だったっけ?」
「男ですけど!?」
「じゃあ分かるだろ?俺の気持ち」
小学生の頃、好きな人はただ見つめるだけで精一杯だった榛名には、霧咲の気持ちは全く理解できない。けど『好きだから』いじめたい、という言葉はなんだか嬉しく感じたのだった。
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